地中海に殺到するボート難民、イタリアは悲鳴
source : 2015.03.12 The Wall Street Journal. (ボタンクリックで引用記事が開閉)
ある肌寒い日、リビア沿岸に浮かんだ薄っぺらなゴムボート20隻に3800人以上のアフリカ人が詰め込まれた。有償でひそかに難民を出国させる請負業者が間に立っており、中には銃を突きつけられて無理やり乗船させられた人もいた。アフリカ人にはローマにあるイタリア沿岸警備隊本部の電話番号が登録された衛星電話が手渡され、ボートは沖に流された。
極寒の海を数時間漂った後、難民らはイタリアに助けを求めた。それから3日間、沿岸警備隊は休まずに救出活動を続けた。あるときはリビアに近い海上で請負業者4人が247人を運んでいた沿岸警備隊にカラシニコフ銃を振り回し、難民の乗っていたボートを1隻返すよう要求した。
今年の冬には大量のボート難民が地中海を横断した。こうした航海は通常、冬には急減する。つまり、これは世界的にも通行量が多くて危険な航路で、難民の数が過去最高を更新する可能性が出てきたことを意味する。1月1日以降、約9500人の難民がイタリアに渡ろうと試みたが、これは前年の同じ時期を70%上回る。欧州対外国境管理協力機関によると、リビアにはさらに数十万人もの難民が渡航の準備をしている可能性があるという。
難民急増により、これに対処するという重荷を依然としてイタリアが負担している様子が浮き彫りになった。一方、欧州連合(EU)はボート難民の群れに気むずかしい態度を示しており、一貫した移民政策を打ち出せないEUの無能さが露呈している。この結果、EU内部では対立する各国の移民政策がつぎはぎ状に入り乱れ、加盟国間に不協和音が響いている。
2014年には約21万8000人の難民がボートで地中海を渡ったが、少なくとも3500人が航海途中で死亡したため、ここが難民にとって世界で最も危険な航路となった。この大多数がリビアからイタリアに向かう難民だ。
2013年10月にランペドゥーサ島の沖合で約360人のアフリカ人が溺死したことを受け、イタリア海軍は直ちに「マーレ・ノストルム(われらの海)」と呼ばれる積極的な海洋救出作戦を開始。昨年には17万人以上の難民を救出した。
昨年の秋には、マーレ・ノストルムに対する反移民グループからの痛烈な批判を受け、イタリア政府はEUに海洋警備組織を新設するよう説得。これにより、マーレ・ノストルムに取って代わる「トリトン作戦」が誕生した。
ただ、トリトン作戦への参加はEU加盟国の意思に委ねられており、捜索や救助活動に充当される資金は十分に集まらなかった。このため、同作戦の予算は月290万ユーロ(約3億7100万円)と、マーレ・ノストルムの3分の1にとどまる。トリトン作戦は11月1日に始まったが、その任務はイタリア沿岸から約48キロメートル以内に限定されている。
早くも今冬にはトリトン作戦のもろさが露呈した。過激派組織「イスラム国」の勢力拡大とリビアでの法と秩序の崩壊を受け、より多くの難民がイタリアに逃げ出している。アフリカでは人口が膨張しており、欧州への難民流入が恒久的な現象になってきた。ローマ社会科学国際自由大学のアルフォンソ・ジョルダーノ教授は「この問題に少しずつ対応している」としながらも、「現在、これは構造的問題になっている」と話した。
リビアで清掃作業員として働いていた26歳のナイジェリア人男性は先月、暴力から逃れるために請負業者の助けを借りる必要性に迫られた。出発日の波は荒かったにもかかわらず、業者が用意したのは空気を入れて膨らます薄っぺらいレジャーボートだった。男性は乗船を拒否したが業者の1人が顔に銃を突きつけ、妊婦を含む難民らを無理やりボートに押し込んだ。
男性は「人々はボートの上で叫び、嘔吐(おうと)していた」と述べ、「私もそうだった。水も食料もなかった」と振り返った。その数時間後、イタリアが難民グループを救出した。
マーレ・ノストルムは終了し、トリトン作戦の活動範囲も限定的だ。このため、イタリア沿岸警備隊は自身にとっても難民にとっても一段とリスクの高い捜索・救助活動を取らざるを得なくなった。
マーレ・ノストルムではイタリア海軍の巨大な軍艦がリビアの沿岸近くまで進行し、難民の乗ったボートに素早く接近した。現在は沿岸警備隊の小型巡視船がシシリーやランペドゥーサ島から派遣され、より長い時間をかけてボートに接近しているのだ。沿岸警備隊の高官は「マーレ・ノストルムではボートに接近するまでの時間が(現在の)半分だった」と語る。
難民や当局者によると、渡航を仲介する業者は収入を増やすため、さらに乱暴な新戦略を採用している。2月初め、強風と寒波が襲うなか、業者はTシャツしか着ていない複数のアフリカ人の若者に水も食料も与えず、ゴムボートに強引に乗り込ませた。このうち29人が低体温症で死亡した。
こうした状況下、48キロを超える範囲までトリトン作戦の巡視活動を広げざるを得なくなり、作戦の基本任務があいまいになってきた。イタリアは、リビア沿岸近くでの救助活動でトリトンの船による支援を繰り返し求めた。支援要請を拒否することができないトリトン作戦は、11月以降に救助された2万2300人のうち約3割の救助活動を支援してきた。
難民の数は膨大になり、先月には少なくとも300人が死亡した。これを受け、EUはトリトン作戦を最短でも年末まで延長し、イタリア政府による捜索・救助活動への資金援助を増やすことにした。欧州委員会のアブラモプロス欧州委員(移民・内務・市民権担当)は、イタリアがさらなる支援を要求すればEUは「即座に反応する」と述べた。
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