source : 2024.11.29 デイリー新潮 (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■大手メディアの敗北
昨今ネットのトレンドに入りがちなワードは「マスゴミ」だが、それと同時に、「偏向報道」というワードも入ってくることがある。米大統領選の期間中、日本では、「マスゴミ」と共にネットに盛んに書かれていた。これは、大手マスコミが、カマラ・ハリス氏を有能な人物として扱い、アメリカや世界を良くする存在だと持ち上げ、一方でドナルド・トランプ氏を差別主義者の極悪人と扱ったことがまず一つ。
番狂わせが起こった兵庫県知事選でも同様だった。マスコミの多くは、斎藤元彦氏を「パワハラ男」と徹底的に叩きまくった。特に地上波テレビでは、番組が論調を決め、そこに同意するであろう出演者でその場を固め、フリップやパネルもその論調通りにする。
そして、選挙でトランプ氏と斎藤氏が勝利したらスタジオがお通夜状態となり、「一体なぜ……」といった空気感になる所も全く同じだった。そしてその後はお決まりのネット批判が来る。
「我々メディアは多種多様な意見と事実をベースに信頼できる情報を出しているが、嘘だらけのネット情報を信じた愚民の行動により、本来あるべき姿が毀損されてしまった」
こう言いたいわけである。だからこそ、「Mr.サンデー」(フジテレビ系)でキャスターの宮根誠司氏は、斎藤氏勝利の後、「大手メディアの敗北」と述べた。宮根氏はこの前段として平等性を重視し、ファクトチェックや裏取り、プライバシー重視の姿勢をキチンと報道する、と述べた。そのうえで「一方でSNSなんかは、そういうのをポーンと飛び越えちゃう」と発言。
■スノッブなメディア
筆者はこの一連の発言については「真実を追求する者がデマ屋に負けた。実に理不尽である」と宮根氏が言いたいのだろうと解釈した。しかし、そうではないのでは。これまで大手メディア、特にテレビはどちらかの陣営や論調に肩入れし、そちらを正義として報道してきて、外しまくってきた歴史があるではないか。ここでその黒歴史を、一度振り返ってみよう。
もっとも分かりやすいのは、2016年の米大統領選。破天荒過ぎるドナルド・トランプ氏は、リベラルで知的で女性のヒラリー・クリントン氏に勝つわけがない、といった論調で報じる大手メディアが多かった。結局トランプ氏が勝利したのだが、メディアは「学歴が低く年収も低い『ラストベルト』に住むバカがポピュリズムに屈してトランプに投票した」と総括した。
基本的に当時のアメリカのリベラルメディアと、そのメディアの論調に従う日本のメディアは、“自分らの分析はバカによる行動を想定したものではない”と述べた。2025年に発足する第二次トランプ政権の副大統領J.D.ヴァンス氏はトランプ氏が2016年の選挙で勝つ前、自身の著書『ヒルビリー・エレジー』で、貧困層が多く、ブルーカラーが中心の「ラストベルト」に住む白人の悲哀を描いたが、この本に登場する彼らこそがトランプ氏を支持したのだ。
ヴァンス氏のこの分析こそがアメリカ全体の民意を表したわけだが、スノッブなメディアはヴァンス氏と同書に登場する一般庶民を見下した。「所詮は人権意識の低い懐古主義の学歴が低くて年収も低い連中の戯言だろう」と。
■こいつが“クロ”だ
結局、2016年と2024年の選挙における日米メディアの予想は、「スノッブメディアの戯言」になってしまったわけだが、ここからは日本メディアが思い込みで報じ、誤報となってしまった例を紹介しようと思う。「ハリス氏が勝つ」「斎藤氏は負ける」といったことに連なるものの数々である。
まずは1994年の松本サリン事件である。この時、河野義行さんが「農薬の配合を誤った」といったことからサリンを生成したことにされた。河野さんについては、妻がオウムによって散布されたサリンにより寝たきり状態になったが、メディアは同氏を犯罪者扱いした。とにかくメディアは「公正を期す」と言うばかりで、一旦方針が決まると「こいつが“クロ”だ」と決めつける。河野さんは妻がとんでもない被害に遭ったうえに、犯罪者扱いされたわけで、「マスゴミ」の罪深さを感じるとんでもない騒動である。
そんな失態を犯しながらも反省などなく、マスコミの一方的な報道は続く。たとえば2002年10月、サッカー日本代表は日韓W杯終了後、初の親善試合を行った。フィリップ・トルシエ前監督は守備重視の監督だったが、ジーコ監督就任で「ファンタジスタ」を優遇する布陣を取るとメディアは喧伝した。
■黄金の中盤
そして、「黄金の中盤」とジーコ氏の現役時代のブラジル代表のMF4人を持ち出し、中田英寿、小野伸二、中村俊輔、稲本潤一を日本版の黄金の中盤と扱った。だが、負傷もあり、この「黄金の中盤」はそれほど試合で揃うことはなかったが、10月段階のメディアの報道はあたかも日本代表に、ジーコ氏率いるブラジル代表的な圧倒的な力を持つMF陣が揃ったと喧伝した。まぁ、結果的に2006年のドイツW杯で日本代表は予選敗退をする。
もちろん中田、小野、中村、稲本は日本ではすごい選手ではあるが、当時の世界レベルのMFでいえば、ジダン、ヴィエイラ、ネドベド、ダービッツ、セードルフ、マケレレ、ピルロといったレベルの選手がいたのである。それを過度に日本のメディアは「黄金の中盤」と褒めそやした。
サッカーについては後日譚があり、2010年の南アフリカW杯直前、親善試合で負け続けた岡田武史氏の更迭論が大手メディアでもネットでも登場。しかし、岡田氏は直前の親善試合で阿部勇樹を「アンカー」に据える守備的布陣を採用。コレがうまくハマり、予選リーグ初戦のカメルーン戦で見事勝利。
■おいしいネタ
この時ネットでは「岡ちゃんごめんね」と書くムーブメントが誕生した。ジーコ氏のファンタジスタ中心のラインナップとは異なり、ガチガチに守備を固める岡田氏の布陣が見事に機能し、初戦の勝利をもたらしたのだ。メディアはこの勝利まで岡田氏に対して懐疑的だったが一気に手のひら返しをし、岡田氏を「名将」扱いした。結局岡田JAPANは決勝トーナメントに進出する。
この手の「メディアによる一方向の礼賛・批判」はいくらでもあるが、大いなるインパクトを与えたのは「STAP細胞はありまーす」の小保方晴子氏ではなかろうか。割烹着を着て、人類の命を救うであろうSTAP細胞を発見した研究者、そして「リケ女の星」としてテレビは絶賛した。
その後、論文が杜撰な捏造だらけだったことが明らかになったりしたため、論文は取り下げられたが、彼女が登場した初期、テレビは散々彼女を持て囃した。それは「理系の若い女性が頑張っている」という「おいしいネタ」だったからだろう。
私自身もメディアの人間だから分かるが、「オッサンが新しい科学的発見をした」よりも「若い、そして容姿の整った女性が新しい科学的発見をした」方が圧倒的に社内で企画が通る可能性が高まるのだ。
■論文があればとりあえず信じる
小保方氏についてはまさにソレである。しかも、メディア人に多い早稲田大学出身の人間であったため、当時、メディアは小保方氏に熱狂した。あの件は2014年の話だが、あれから10年。2024年の今、STAP細胞の存在は認められていない。
この反省をメディアは活かすべきであるのだが、基本的に「ネット情報はフェイクが多い」という開き直りをするだけだ。こうした状況がなぜ起こるかといえば、メディアの基本的な考え方にある。
【1】リベラルな考え方こそ至高
【2】保守派の主張を紹介するのは反社会的行為
【3】新しく、夢があるものは論文という権威あるものが存在していればとりあえずは信じる
――こうした姿勢から、偏向報道が生まれるのだ。
そういったこともあり、アジェンダを決めたもの以外を述べる人は「陰謀論者」「デマ屋」のレッテルを貼り糾弾する。我々の方がよっぽど「デマ屋」では? と思い、提言する人間が内部で増えない限り、大手マスメディアの偏った報道は終わらないだろう。
(中川淳一郎)
source : 2024.12.07 デイリー新潮 (ボタンクリックで引用記事が開閉)
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