第三者委員会の報告書に対する朝日新聞社の見解と取り組み
source : 2014.12.26 朝日新聞 PDF (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■(1)経営と編集の関係
〈ポイント〉
- 経営陣は編集の独立を尊重し、原則として記事や論説の内容に介入することはしません
- 経営に重大な影響を及ぼす事態であると判断して関与する場合には、関与の責任が明確になるよう、ルールをつくります
- 社外監査役も出席する取締役会に正式な議題として諮るなど、議論を記録に残します
- 社外の複数の有識者で構成する常設機関を設け、意見を求めます
- 編集部門内に判断の根拠を開示して意見を求めるなど、経緯を透明化します
経営による編集(記事、論説)への関与をルール化・透明化します。
朝日新聞社では、記者が記事を書き、それをまとめて紙面をつくる執筆・編集は、編集担当の取締役を最終責任者とする編集部門の判断と決定にゆだねられています。具体的には、編集担当取締役のもとにいるゼネラルエディターが日々の新聞づくりの指揮をし、全責任を負っています。経営に当たる役員が日常的な紙面づくりで記事や論説の内容に口出しをすることはありません。
しかし、8月5、6日の慰安婦報道検証紙面をつくる際、吉田清治氏(故人)の証言記事を取り消すことについてのおわび掲載に対し、「経営に重大な影響を及ぼす可能性がある」として当時の社長らから異論が出て、おわびを盛り込まない紙面を掲載することになりました。また、ジャーナリストの池上彰さんのコラムについては、当時の社長が難色を示したことによって掲載が見送られました。しかも、経営陣が記事の内容に関与した際に、役員間で十分な議論はされておらず、正式な取締役会にも諮っていませんでした。当時の社長、編集担当と危機管理担当らの4人が対応の中心となり、作成途中の紙面を見て意見や感想を他の役員に求める程度で、本格的な議論がされたとは言えませんでした。
第三者委員会の報告書は、経営と編集の関係について、「今回の問題の多くは、編集に経営が過剰に介入し、読者のための紙面ではなく、朝日新聞社の防衛のための紙面を作ったことに主な原因がある。経営には最終的に編集権も帰属する以上、編集に経営が介入することもあり得ないことではない。しかし、それは最小限に、しかも限定的であるべきだ」と指摘しています。
さらに、報告書は「編集に経営が介入するときには、第三者の意見を聴く必要が高いと思われる。編集に経営が介入するという非常事態の場合には、その介入の可否や介入の程度について意見を聴取するための常設の機関を設け、これを新聞記者出身以外の第三者によって構成することを検討すべきであろう」と指摘しました。
これらの指摘を重く受け止め、経営陣は編集の独立をいっそう尊重し、原則として記事や論説の内容に介入することはしません。経営に重大な影響を及ぼす事態であると判断して関与する場合には、関与の責任が明確になるよう、ルールをつくります。一部の役員だけでやりとりして決めるのではなく、社外監査役も出席する取締役会に正式な議題として諮るなど、議論の過程を記録に残します。また、社外の複数の有識者で構成する常設機関を設け、記事や論説の内容に関与する場合には、意見を求めることにします。
たとえば、経営が関与する場合には、編集部門内に判断の根拠を開示して意見を求めるなど、議論の過程を透明化する具体策を盛り込みます。池上さんのコラム掲載見送り問題では、見送り発覚後に東京本社の編集部門の部長会が総意としてコラム掲載を求め、掲載の後押しになった事例があります。
日本新聞協会の声明では、編集権の行使者として、「編集内容に対する最終的責任は経営、編集管理者に帰せられるものであるから、編集権を行使するものは経営管理者およびその委託を受けた編集管理者に限られる。新聞企業が法人組織の場合には取締役会、理事会などが経営管理者として編集権行使の主体となる」としています。
これを踏まえたうえで、朝日新聞社は今後、経営陣が記事や論説の内容に不当に関与し、紙面をゆがめることを厳に慎みます。読者のための紙面づくりに必要かどうかという視点を貫き、「経営と編集の分離」原則を尊重して、「国民の知る権利」にこたえる紙面をつくることを肝に銘じます。
■(2)報道のあり方
〈ポイント〉
- 社内外からの意見や批判に謙虚に耳を傾け、読者の視点に立って事実と向き合います
- いったん報じた記事を継続的に点検し、誤りは速やかに認めて訂正します
- 訂正報道のあり方の抜本的見直しを進めます
- 社外からの異論や反論を丁寧に受け止め、「言論の広場」として語り合う紙面を充実します
- 「論争的なテーマ」について、継続的な取材の中核となるチームをつくります
- 多様な意見を読者に伝え、公正で正確な報道に努めます
一連の問題では、社内外からの意見や批判の声に、謙虚に耳を傾ける姿勢が欠けていました。記者、原稿をみるデスク、編集幹部がそれぞれの意識を問い直し、読者の視点に立って謙虚に事実と向き合います。
記者やデスクは毎日、何を取材するかを考え、どう報じるかを判断しています。先入観や思い込みがあれば、判断を誤ってしまいます。その危うさといつも隣り合わせであることを忘れず、緊張感を持つことの大事さを痛感しています。
このことは、東京電力福島第一原発の事故をめぐる「吉田調書」報道を検証した第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)からも指摘されました。
私たちはすでに、社内でPRCがまとめた見解を読み込む勉強会を始めています。今回の第三者委の報告書についてもしっかりと読み込み、記者の研修で取り上げるなどして基本姿勢の再確認を進めていきます。
私たちに一番欠けていたのは、いったん報じた記事への疑問や批判について、継続して点検する姿勢でした。批判に耳を傾け、誤りは速やかに認めて訂正する。こうした意識を社内に浸透させていきます。
今回の問題を受け、訂正報道のあり方について社内で議論を進めています。具体的には、
(1)訂正記事の報じ方
(2)訂正・おわびなどの基準
(3)誤報防止の仕組み
(4)デジタル化時代の訂正の周知方法
――などです。
今月9日からは訂正記事の書き方を改め、訂正文の末尾に「訂正しておわびします」という表現で「おわび」の気持ちを伝え、必要に応じて誤った理由も説明することにしました。
慰安婦問題に関する過去の報道では、慰安婦と女子挺身(ていしん)隊との混同をどう訂正するかが課題となりました。第三者委は、当時は両者の違いがあいまいに認識され、十分に理解されていなかったと指摘しました。
歴史や科学などを扱う記事では、当時の合理的な知見に基づいて書かれたものの、年月の経過とともに記事の根拠が揺らいだり、新たな事実が発見されたりすることがあります。
社会的に影響力のある記事が誤りだったとわかった場合、記録から消し去ってしまえば、メディアの誤りという「負の歴史」もなかったことになります。紙面で記事を訂正するとともに、過去記事を閲覧するデータベースなどからは安易に削除せず、誤りや新たにわかった事実を「おことわり」をつけて丁寧に説明するという方法もあります。こうした視点を採り入れ、来春までに新たな訂正の提示方法の考え方をまとめ、実行したいと思います。
本社には読者を始め社外の方々から様々な声が寄せられていますが、これまで指摘や意見を紙面に反映する機能は十分とは言えませんでした。
社外の方からの疑問、異論、反論を丁寧に受け止める紙面作りを目指します。
具体的には、読者の観点から、独立した立場で編集部門に意見を伝えるなどの仕組みを来春新設します。また、フォーラム面など「言論の広場」として語り合う機能を充実させます。
社内では、少数による独善に陥らないようにするために、調査報道や大型の企画・特集などは、他部のデスクを含めた輪読会を実施して多方面から記事をチェックする仕組みをつくります。
第三者委は、朝日新聞の取材態勢について、特に「意見の分かれる論争的なテーマ」での継続的な報道の重要性を再認識する必要性を強調しました。
「歴史」のように市民の関心が高く、多くの異なる意見があるテーマについては、継続的な取材の中核となるチームをつくります。その中で、社外の有識者を招いて近現代史に向き合う力を養う勉強会を開くなど、多様な見方を反映させます。若い記者の参加により、蓄積した取材結果の継承をはかります。
第三者委から、記者一人ひとりが執筆した記事の影響力と責任を再確認することも求められました。記事にはすでに原則として署名をつけていますが、複数の記者がかかわったチーム取材による記事の署名のあり方を再検討します。読者への説明責任を意識し、記者の「顔」が見える紙面を作るよう心がけます。
こうした一連の改革は、長期的な視野に立ち、編集にかかわる全ての社員による自由な議論を通じ、常に見直していきます。
第三者委からは「言論の行使に際して萎縮することなく、その社会的責任を十分自覚し、日本の健全なジャーナリズム活動を推進する原動力になってほしい」との励ましもいただきました。新聞の役割は、正確な事実と多様な意見を読者に伝えることにあります。公正で正確な報道をするよう、今後も努めていきます。
■(3)慰安婦報道
〈ポイント〉
- 吉田証言記事などの誤りを長年放置してきたことを改めておわびします
- 慰安婦となった女性の多様な実態と謙虚に向き合い、読者にわかりやすく伝える取り組みをより一層進め、多角的な報道を続け、それを海外にも発信していきます
- 社内の各部門から記者を集め、継続的に担当する取材班をつくります。社外の識者とも議論を重ね、海外にも記者を派遣します
- いろいろな視点や意見をもつ識者や関係者の見方を紹介するなどし、読者のみなさまがこの問題を考える材料を示していきます
第三者委員会の報告書で厳しい指摘を受けた吉田証言記事などの問題がなぜ起きたのか。大きな誤りは1980~90年代の吉田証言記事のように虚偽性を指摘されたり、92年の「軍関与」の記事につく用語メモのように不正確な点を指摘されたりしたのに、その後も再取材、検証をせずに放置し続けたことです。改めておわびします。
97年の特集記事を掲載した際の対応にも問題がありました。信用性が揺らいでいた吉田証言について裏付け取材を尽くし、取り消し・訂正をすべきでした。
私たちは、97年の特集記事で慰安婦の「強制性」について、「女性の『人身の自由』が侵害されたこと」と整理しました。しかし、それ以前の吉田証言の誤った記事を総括しないまま、こうした考え方を示した姿勢が、第三者委に「議論のすりかえ」と批判される結果になりました。慰安婦問題をめぐる朝日新聞の報道への様々な批判や議論を招いたことを謙虚に受け止めます。
この教訓を踏まえ、慰安婦の実相に謙虚に向き合い、読者にわかりやすく伝える取り組みを一層進めます。社内の各部門から記者を集め、継続的に担当する取材班をつくります。社外の識者とも議論を重ね、海外にも記者を派遣します。
また、いろいろな視点や意見をもつ識者や関係者の見方を紹介するなどして、読者のみなさまがこの問題を考える材料を示していきます。
慰安婦は将兵の性の相手をさせられた人たちです。その境遇は一様ではありません。植民地や占領地といった地域の違い、戦況によっても異なります。集められ方の経緯もさまざまです。こうした実態を丁寧に取材します。
慰安婦問題をみる視点も時代とともに変わってきています。この問題は、日韓両国間の困難な課題となっています。
一方、国際的には、女性の人権問題として捉える傾向が強まっています。ほかにも、日本の植民地統治や戦時体制との関わり、世界での「軍隊と性」としての視点など、多くの論点があります。
第三者委は、朝日新聞の吉田証言記事や、慰安婦報道が国際社会に与えた影響も調査しました。報告書では、岡本行夫委員と北岡伸一委員が朝日新聞などの報道が韓国内の批判的論調に同調したと指摘しました。波多野澄雄委員と林香里委員の検討結果はいずれも、吉田証言記事が韓国に影響を与えなかったことを跡づけたとしました。林委員はまた、朝日新聞の慰安婦報道に関する記事が欧米、韓国に影響を与えたかどうかは認知できないとしています。
この問題で多角的な報道を続けていきます。海外にも発信し、報道機関としての役割を果たしていきたいと考えます。
慰安婦の女性たちが、尊厳の回復や救済を求めて声を上げたのは90年代初めでした。私たちは被害者の声を受け止め、繰り返してはならない歴史を伝えていく必要があると感じました。
それから20年余り。高齢の女性たちから証言を聴ける時間は少なくなっています。私たちは、原点に立ち戻り、そのうえで、慰安婦問題についての貴重な証言や国内外の研究成果などを丹念に当たります。
戦後70年となる来年、多角的に歴史を掘り下げる報道をめざします。
以上
朝日新聞はまもなく3度死ぬのか!? 2014年私の3大ニュースの今後を読む / 長谷川幸洋
source : 2014.12.26 現代ビジネス「ニュースの深層」 (クリックで引用記事が開閉)
年末を迎え、ことし最後のコラムである。そこで、私の2014年重大ニュースを振り返ってみよう。政治分野では、なんといっても最大のトピックスは抜き打ちの解散総選挙と安倍晋三政権の圧勝だ。
■消費税を5%に戻すのがよいが・・・
とはいえ、それで話は終わらない。先週のコラムで指摘したように、実は安倍政権はこれからが正念場である。というのは景気が思わしくない中、どう景気を回復するかといえば、正直言ってこれがなかなか難しいからだ。
安倍首相は解散に当たって2017年4月に消費税を10%に上げると約束した。ということは準備期間を考えると、遅くとも増税1年前の16年春ごろには、景気を回復していなければならない。いまからわずか1年半後である。
そんな短い期間に景気を良くしようと思ったら、経済政策の常識では財政金融政策を発動する以外にない。ところがご承知のように、安倍政権は第1の矢(金融緩和)と第2の矢(機動的な財政政策)として、財政金融政策はとっくに発動済みである。
だから、いま以上に財政金融政策を上積みするとなると、まず余地があまり残っていないうえ、政策効果も限定的になる。それから世間的には「もう十分やったじゃないか」という批判を覚悟しなければならない。
具体的に言えば、金融政策は10月末に追加緩和に踏み切ったばかりだ。すると残るは財政出動だが、いま盛んに報じられているのは3.5兆円程度の補正予算編成である。これで十分かといえば、私はまったく十分とは言えないと思う。
というのは、4月に消費税を3%引き上げた結果、何が起きたか。1%が2.5兆円と考えると、単純計算で7.5兆円の民間所得を国と地方が吸い上げた形になっている。それを3.5兆円程度の補正予算で埋め合わせできるかといえば、足りないのはあきらかではないか。
しかも、よく知られているように、補正の規模というのは事業規模であって、本当の財政支出を伴う部分、いわゆる真水の支出はもっと少ない。となると、4月増税の7.5兆円の所得吸い上げを3.5兆円程度の補正予算で埋め合わせるには、まったく力不足なのだ。
では、どうすべきか。
もっとも経済政策の道理に合っていて即効薬になるのは、4月増税をチャラにする、つまり消費税を5%に戻す政策である。だが、将来の再増税を約束したくらいだから、税率を5%に戻すなどというのは、とても政治的に不可能だろう。だからこそ残された選択肢が少なく、打つ手に乏しい状態なのだ。
そんな中で、試金石は来年4月の賃上げである。安倍政権は総選挙結果が出た翌々日の12月16日、政労使会議を開いて賃上げに向けて「最大限の努力」を促す合意文書をまとめた。賃上げがはかばかしい結果にならないと、その後の政権運営に響くという危機感の表れである。
4月の賃上げで目に見える成果を上げ、その後の夏のボーナス、冬のボーナスに続ける。そして16年春を迎える。そういうシナリオが実現しないと、増税の約束を果たすのが難しくなる。一言で言えば、安倍政権はこれから3回、賃金ハードルを越えなければならない。このハードルはけっして低くない。
■民主党は分裂すべき
さて以上を確認したうえで、では野党が攻勢をかけられるかといえば、こちらも別の意味で正念場を迎えている。野党第1党である民主党の行く末が決まらないのだ。年明け1月18日に代表選を実施して、新しい代表を決める予定だが、早くも党内は分裂の気配を漂わせている。
細野豪志元幹事長は代表選出馬を表明したが、枝野幸男幹事長は不支持を明言している。両者はいま激しい批判の応酬を繰り返し、亀裂は深まる一方だ。岡田克也元代表や蓮舫元行政刷新相らも出馬する見通しだが、この調子だと、だれが代表になっても、もはや民主党が1つにまとまるのは難しいのではないか。
私はかねて民主党は分裂すべきだ、と唱えてきた。それは肝心の経済政策と外交安保政策をめぐって左右両派の対立が解消しそうにないからだ。2012年衆院選、13年参院選と負け続けているのに、いまだに党の基本政策がはっきりしない。
今回の総選挙結果は3度めの正直である。細野氏は完全な敗北と総括しているが、左派が「負けたわけではない」と思っているなら、左派だけでまとまってもらったほうが、有権者にも支持者にもはるかに合理的ではないか。
来年が路線論争に決着をつける最後のチャンスだ。民主党が左右で分裂すれば、維新の党は右派と一緒になる可能性が出てくる。野党再編はそこから動き出す。
■中国の冒険的行動に準備が不可欠
次に国際関係だ。ウクライナに侵攻したロシアは苦境が鮮明になってきた。ルーブルは半年で5割も下落した。ロシアの輸出の7割は原油と天然ガスだ。もともと世界に売れる工業製品がほとんどないうえ、ルーブル安で外国商品は割高になった。
プーチンは最近の会見で「クマは決して許しを求めない」と強気を装った。だが苦境はあきらかだから、日本にとってはチャンスである。日本は米欧の隊列から一歩後ろに下がった位置を続けるべきだ。そうすれば日ロ関係は来年、大きく動く可能性がある。
中国の習近平は、いよいよ権力闘争にとりつかれてきた。周永康・前政治局常務委員の摘発に続いて、胡錦濤・前国家主席の側近だった令計画・党中央統一戦線工作部長も「重大な規律違反」で摘発された。
習近平は「反腐敗」の御旗を掲げてライバルの幹部を次々と摘発しているが、本質は権力闘争である。「習近平が腐敗していない」などと信じる中国人はいない。米国の通信社、ブルームバーグが習近平の親族の巨額蓄財を報じたが、圧力がかかったのか、中断してしまった。ニューヨーク・タイムズは温家宝元首相の巨額蓄財も報じている。
中国の共産党幹部はだれもかれもが腐敗しているのだ。そんな中で習近平が権力闘争に勝利すると、東アジアや日本にどんな影響があるか。いいとか悪いとか言っても始まらない。日本は中国が冒険的行動に出ても対抗できるように、十分な準備が必要だ。集団的自衛権の法制化はその一環である。
■朝日新聞の第三者委員会報告には驚いた
それからマスコミである。2014年は朝日新聞問題に火がついた1年だった。朝日は12月23日の紙面で、慰安婦報道や池上彰氏のコラム掲載見送り問題について第三者委員会の報告と提言を大々的に報じた。これをどうみるか。
私は、新聞が自分の問題点を検証する仕事を第三者委員会に丸投げしたこと自体が、報道機関の責務を放棄している、と考える。「報道と論評の独立・自立」を売り物にする報道機関が紙面の検証を第三者に丸投げして、ご意見を拝聴しているようでは独立も何もない。これは原理原則の問題である。
そういう視点から、私は『月刊Voice』11月号で「朝日は有識者による第三者委員会で『2度死ぬ』羽目になる」と書いた。今回の報告と提言を見て「やっぱり2度死んだ」と思った。謝るだけで、自分たちの考えはないに等しかったからだ。
本来なら、第三者に指摘される前に自ら検証し「ここが問題だった」と分析して、改善策を講じなければならなかった。そういう努力の形跡がない。自分の仕事を他人に丸投げしたからだ。
第三者委員会報告の要約版を掲載した紙面を見ても「どうなっているのか」と思う部分があった。委員の1人、田原総一朗氏は「謝罪することで朝日の批判勢力をエスカレートさせてしまう恐れがある、と報告書が書いている」と紙面で指摘していた。
「どういうことか」と思って、私は紙面を探してみたが、要約版にそんな箇所はない。そこで朝日のサイトにある報告書全文(冒頭の引用)をチェックしてみると、たしかに次のように書いていた。
謝罪することで朝日新聞の記事について「ねつ造」と批判している勢力を「やはり慰安婦報道全体がねつ造だった」とエスカレートさせてしまう恐れがある、朝日新聞を信じて読んでくれている読者の信用を失うといった意見から、謝罪文言を入れないゲラ刷りも作成された。
(中略)
経営上の危機管理の観点から、謝罪した場合、朝日新聞を信じてきた読者に必要以上に不信感を与える恐れがあること、朝日新聞を攻撃する勢力に更に攻撃する材料を与えること、「反省」という言葉で表現することで謝罪の意を汲んでもらえるとする意見などにより、結局、謝罪はせず、他方、吉田氏にまつわる16本の記事については記事そのものを取り消すという対応をすることとした。
この部分には本当に驚いた。報告書は池上コラムの不掲載を決めたのは、実質的に辞任した木村伊量社長の判断だったと認めたが、批判を受け入れない姿勢はここでも一貫している。朝日は自分の批判勢力を利さないかどうか、を紙面作成の判断基準にしていたのだ。
■朝日新聞は3度死にかねない
そうだとすれば、自分の意見、主義主張が第1で、客観的事実は2の次という話である。これは報道機関がすべき判断ではない。主義主張を唱えるプロパガンダ機関の判断である。
ここを読んでしまったら、あとの部分はすっかり読む気が失せた。とっくに朝日は死んでいたのだ。間違った報道で1度死んだが、そもそも紙面掲載の判断基準が間違っていたのだから、初めから死んでいたのである。つまり2度死んでいた。
この先、これから「自分たちはこうする」という話をしないと、朝日は生き返らないだろう。再生策が示せない限り、朝日は2度どころか3度死ぬはめになる。12月26日に記者会見を開くそうだから、いまはそこに注目したい。
もうひと言。この話は実は朝日だけの話ではない。私は自分が所属する東京新聞について、このコラムやテレビやラジオでも言いたい放題、言ってきた。ただ残念ながら、東京新聞紙上で言った覚えはあまりない(もしかしたら1回くらいはあった)。
だが、本来は新聞紙面で言うべきなのだ。私は自由な異論を唱えられる新聞こそが自由で独立した新聞なのだ、と信じている。私自身の来年の課題である。
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