多くの難民にとってイタリアは踏み台
source : 2013.10.10 The Wall Street Journal. (ボタンクリックで引用記事が開閉)
戦争で荒廃したスーダンのダルフール地方から逃れてきた難民、シディグ・アダムさん(33)が2004年におんぼろのボートでイタリアに上陸したとき、彼は自分の旅が終わったものと思った。しかし、その後、彼は2年間にわたる地獄を経験しなければならなかった。
難民認定を申請して18日後、警察は無一文の彼をローマの主要な駅で降ろし、申請の結論が出るまで自活させた。
多くの人はイタリアを去ったが、アダムさんは数百人の難民とともに、ローマ市内の荒れ果てたビルで生活することにした。彼はイタリア語が全く話せなかった。トイレ1つを共有し、電気も水道水もないビルに住んだ難民たちは、この悪臭に満ちたビルをアラビア語で「捨てられた場所」と呼んだ。
アダムさんは当時を振り返って、「私はより良い支援が受けられると思っていた」と話した。彼はここに2年住んだ後、あるレストランでもぐりの職に就くことができた。この店のおかげで部屋を借りることができた。
長い海岸線を持つイタリアは難民たちが足掛かりとする主要な国で、他の欧州諸国に比べても難民認定の数は多いが、その後の定住を支援しないため、多くの人たちは貧困の中で生活することになる。
しかし、こうした状況も多くの難民が押し寄せるのを食い止めることができない。先週もアフリカからの難民を乗せた船がイタリア南部のランペドゥーザ島沖で沈没し、数百人が死亡した。
イタリアが移民をうまく国内に溶け込ませられないことから、同国に到着した人たちはしばしば、難民の申請をすることなく、さらに北を目指すことになる。これは、欧州連合(EU)の規則では難民は、それがどこの国であれ、難民認定をした国にとどまらなければならないためで、選ぶ場所としては一般にイタリアより裕福な北の隣国の方が良い。
シチリア島のボランティア団体「ボーダーライン・シチリア」の弁護士ジェルマナ・グラセソさんは「イタリアは以前から難民の扱いが下手だ」と言い、「多くの事が素人のようだ」と指摘した。同国の難民の扱いはレッタ首相も困惑させたほどだ。レッタ首相は10月3日のランペドゥーザ島沖の事故で生き残った155人を当局が違法移民の容疑で訴追したことを知ると、「ひどく恥ずかしく思う」と述べた。これらの人々はさらに1人5000ユーロ(66万円)の罰金と国外追放が科される可能性がある。
当局は、法律にのっとってこうした措置を取っていると説明した。レッタ首相は9日、同島での記者会見で、これを見直すことを約束し、「難民の権利を保障できるような、より文明的なやり方にするために重要な措置を導入する」と語った。レッタ首相は欧州委員会のバローゾ委員長とともに同島を訪れ、事故の生存者らに面会した。9日の時点で302人の遺体を収容した。
欧州統計局によると、イタリアは昨年1万5715人の難民申請のうち約57%を認めた。これは欧州全体の27%を上回っている。
難民はイタリアに着くと、わずか数カ月だけ滞在できる受け入れセンターに行く。この後、国営センターのネットワークが住宅や食事、教育などの支援を行う。こうした支援にはイタリア語の習得や職業訓練、法律についてのアドバイスも含まれる。
しかし、これらのセンターは難民移民者たちでいっぱいだ。昨年の時点では、センターは6800カ所しかなく、難民申請者のわずか半分しか対処できなかった。イタリアの11年の難民申請は3万7350人で、これがピークとなった。これはアラブの春で地中海沿岸諸国で騒乱が起きたためだ。
この結果、多くの難民は困窮した生活を強いられた。ローマやフィレンツェなどの都市で難民の医療支援をしている人権団体「人権のための医師団」の調整役アルベルト・バルビエリさんは「センターで数カ月過ごした後、難民たちはしばしばホームレスになる」と話した。
イタリアは受け入れセンター向けに年1億8000万ユーロを、政治亡命を求める人たちのために7000万ユーロを支出している。同国はまた、来年にはセンターの場所を倍以上にする計画だ。レッタ政権は9日、センターにいる未成年者向けの2000万ユーロを承認し、一方、バローゾ委員長も3000万ユーロの資金援助を約束した。
しかし、長期的な見通しは以前厳しく、イタリアの長引く経済危機で仕事を見つけることは困難だ。同国全体の失業率は12%を越えており、若年層はこの3倍以上に達している。
この結果、イタリアに着いた難民は見つからないようにして北欧諸国を目指そうとする。イタリアの方が難民認定の確率が高くてもだ。
例えば、失業率が5%強のドイツで昨年、難民が認定された比率は30%で、イタリアのそれを大幅に下回った。しかし、認定の申請はイタリアの約5倍にもなっている。
ドイツは、スカンディナビア諸国と同様、難民を定住させる上でイタリアよりも手厚い支援─職業訓練など─を提供している。
イタリアで足止めを食らうことを避けるため、一部の難民は同国の沿岸警備などに捕まらないように多大な努力を払っている。ボーダーライン・シチリアのグラセソさんは、最近はイタリア北部の国境を最大6000ユーロで越えさせる犯罪が行われていると話した。スーダン人難民のアダムさんによると、04年に同じ船でイタリアにやって来た他のスーダン人たちは直ちにフランスと英国に向かったという。
難民に食事などの支援をしている宗教団体の関係者は「イタリアに到着する難民たちは、出国する前からイタリアよりもドイツや英国の方がいいということを知っている」と言い、「難民たちは全ての権利を有すると記載された滞在許可証を与えられてセンターを出るが、実際には彼らは何も与えられていない」と話した。
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