source : 2017.12.13 現代ビジネス (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■どうか耳を傾けてほしい
「来年1月にも伊豆半島で大規模な直下型地震が起きる可能性が高い」
こう警鐘を鳴らす学者がいる。あと一月ほど未来の非常に忌まわしい予測で、ややもすればオカルトのように捉える人もいるかもしれない。しかし筆者はこの警鐘を、比較的可能性の高い情報としてとらえている。
彼の声はあまりに小さく、この情報を知っている人はごく少数だ。その理由は、彼が地震学の権威である東京大学地震研究所に籍を置かない「地質学」を専門とする学者だからだ。
地震学の門外漢であるこの学者の警鐘をなぜ筆者が信用しているかといえば、彼が長年培った地質学的見地に基づいて導き出した「地震発生メカニズム」を提唱しているからだ。
筆者は彼の書籍を読み、8年以上にわたる付き合いを続けてきたが、その間、彼の予測の正確さや妥当性を何度も見せつけられている。その経験から筆者は彼の警鐘を深刻に受け入れているのだ。
ただし「この予測が必ずあたる」とか、「今すぐ伊豆半島の警戒を強めるべきだ」といたずらに危機感をあおるような主張をするつもりは毛頭ない。予測はあくまで予測であり、100%はないからだ。そもそも、起こらないにこしたことはない。
筆者の目的は、彼の予測がなぜ筆者にとっては無視できないものなのか、その理由を説明すること。そして地震の予知や予測については旧来のやり方以外の新しい見識を取り入れる時期に来ていることを主張すること。そして、万一のために備えをしてほしい、ということだ。
■経産官僚として伝えたい
まずは、筆者(私)が何者なのか、その経歴を紹介しておこう。
筆者は84年に通商産業省に入省し、主にエネルギー分野などを畑としてきた。03年には内閣官房に出向して、内閣情報調査室内閣参事官を務め国内外の経済情報を収集し、経済情勢の分析を担当した。
ここで経済インテリジェンスの手法を身につけ、エネルギー情勢や中国をはじめとする近隣諸国の経済情勢をつぶさにウォッチしていたが、一方で日本経済に破滅的なダメージを与える地震の発生メカニズムにも長年興味を持ち続けてきた。
日本は地震大国として長年、予知につながる地震研究に多額の予算を割いてきた。にもかかわらず、妥当性のある地震予知は実現できていない。地震研究の総本山である東大地震研究所は「地震予知研究センター」を備えているが、満足のいく成果があげられているとは言い難い。
そうした中で筆者が09年に知り合ったのが、世界の地質構造に詳しく、「地震発生メカニズム」の一つの考え方を提唱する角田史雄氏(埼玉大学名誉教授)である。この出会いから地震発生のメカニズムへの関心が高まった筆者は、彼の考え方を検証するようになった。
角田氏はこれまで、筆者にことあるごとに予測を披露してきたが、その都度その予測の範囲で地震が発生するさまを目の当たりにしてきたのである。
特に忘れられないのは、2011年に東日本大震災が起きたあの日に発した、角田氏の予測だった。筆者は地震発生後に角田氏に今後の余震について尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「このあと、富士山付近で余震が起きそうだ」。
はたしてその4日後の3月15日の夜、静岡県東部で地震が発生(マグニチュード6.4)し、富士宮市では震度6を記録した。
また角田氏は熊本地震発生後の昨年7月の段階で「中国地方で地震発生の可能性が高まっている」と指摘していたが、やはり10月に鳥取県中部地震が発生(マグニチュード6.6)し、倉吉市などで震度6弱が観測されている。
「論より証拠」というが、何度も角田氏の予測の正確さを目の当たりにした筆者は、角田氏が提唱する地震発生メカニズムを信頼するようになった。その角田氏が、冒頭で紹介した「2018年1月・伊豆半島・大規模地震」の可能性を指摘していることは、筆者にとっては緊張の走る事態なのである。
■プレート説ではない
角田氏が唱える地震発生メカニズムを我々は「熱移送説」と呼んでいるが、この説明をする前に、なぜ待望されながらもこれまで日本で地震予知が実現しなかったのか、筆者なりの解釈を披露しておきたい。結論から言えば、筆者は日本のほとんどの地震学者が採用する「プレートテクトニクス説」(以下「プレート説」)の限界に原因があるからだと考えている。
「プレート説」は1969年、米国から日本に上田誠也氏(東大名誉教授)らによって紹介され、やがて小松左京の小説「日本沈没」がベストセラーとなって、日本人にはなじみの深い学説となっていった。
NHKなどで繰り返し放送される地質や地震にまつわる番組は「プレート説」をもとに作られており、日本人の多くはこれをみな科学的な裏付けのある真理だと信じこんでいる。しかし「プレート説」はいまだ学説の段階であり、仮説の一つに過ぎない。
「プレート説」に基づく地震発生の考え方はこうだ。
地球上にある複数のプレートの移動により、プレート同士が衝突し、重い海洋プレートが軽い大陸プレートの下に沈み込む。その間にゆがみが生じてやがて解放されるとき、そのエネルギーが地震を起こす。その歪みが解放されるその時を事前に探知できれば地震予知は可能ということになる。もちろんこれは「プレート説」が正しければということが前提だ。
ところが昨今ではこの学説は揺らいでいる。
かつては「マントルは均一だと考えられていたことから外核から放出される高温の熱が地殻付近まで上昇し、大気と同じようにマントルが対流することでプレートが動く」とされてきたが、その後多くの研究者が計算を行った結果、「マントルが対流することで生じる摩擦力だけでは、重たいプレートを動かすことができない」という。
これを証明したのは、「プレート説」を日本に紹介した上田氏だった。
角田氏も「プレート説を構成する3原則(①海溝でプレートが誕生する、②プレートは冷たく巨大で崩れない板状岩層である、③プレートは遠距離移動する)は、これまでの様々な観測結果からも裏付けられない。よってこの学説は信じられない」とプレート説を否定する立場をとっている。
また地震学者であるロバート・ゲラー氏(東大名誉教授)は「地震はそもそも予知できない」と主張しており、こうした状況から筆者は少なくとも「プレート説に基づく地震予知」は実現が極めて困難だと考えている。
1970年代後半、プレート説に基づいて地震学者たちは「東海沖地震が近々発生する」と予測し、地震予知連絡会が東海地区や南関東を観測強化地域に指定。気象庁などは多額の予算を使い海底地震計を設置したが、それから40年近く経ったいまも東海沖で大地震はその兆候すらみられない(むろん、それは喜ばしいことではあるのだが)。
現在指摘されている南海トラフ地震についても角田氏は、同じような失敗を繰り返すだけだろう」と述べ、「地震予測には全く異なるアプローチが必要だ」と主張する。
角田氏は、日本で従来行われてきたプレート説に基づく地震予知や予測の方法論とは、全く別の手法で「地震発生メカニズム」の学説にたどり着き、それを応用した地震予測を行っているのである。その学説が前述した「熱移送説」である。
■注目すべきは熱エネルギー
「熱移送説」の特徴は、地震を発生させるエネルギーを「熱」と考えていることだ。
「プレート説」をとる地震学者は、地震を発生させるエネルギーはプレートが移動してくる際の大きな圧力と考えているが、角田氏は地球の地核から発生してくる「熱」をエネルギーとする。熱エネルギーは火山の噴火を発生させるが、地震にも大きな影響を及ぼしているというわけだ。火山の多い日本で地震が発生するのも、そのエネルギーが「熱」だからだと考えれば分かりやすい。
火山の場合は、熱エネルギーが伝わると熱のたまり場が高温化し、そこにある岩石が溶けてマグマ(約1000度に溶けた地下の岩石)が発生する。この際に高まったガス圧によって噴火に至る。
一方、地震は地下の岩層が熱で膨張して割れることによって発生する。例えば鉄を溶接したものは大きな力をかけても剥がれにくいが、熱することで簡単にはがれるようになる。これと同じで、熱のエネルギー量が多ければ多いほど、大きな破壊=地震が発生するのである。
ではその熱はどこから来るのか。
大元のエネルギーとなる「熱」は、まず地球の中核から地球の表層に運ばれる。86年に米国地質調査所(USGS)でMRI(核磁気共鳴装置)の原理を応用した技術、マントルトモグラフィーを用いて地球内部の温度分布図が作成され、角田氏がこれを分析したところ、地下3000キロメートルから地球の表面に向って約6000度の熱エネルギーが上昇していることが分かった。
この熱エネルギーの表層での出口は、南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)と東アフリカの2か所が確認されており、このうち南太平洋から表層に出た熱が日本の地震に大きく関わってくるという。
南太平洋で表層に出た熱は、そこから西側に移動し、インドネシア付近で3つのルートに分かれて北上する。一つはインドネシアのスマトラ島から中国につながるルート(①SCルート)、次にインドネシアからフィリピンに向い台湾を経由して日本に流れるルート(②PJルート)、そしてフィリピンからマリアナ諸島へ向かい伊豆諸島を経由して伊豆方面と東北地方沿岸へ流れる(③MJルート)である。
この熱エネルギーは1年に約100キロメートルの速さで移動するため、「熱移送説」を用いれば、インドネシアやフィリピンで地震や火山の噴火が起きた場合、その何年後に日本で火山の噴火や地震が起きるかが推察できるようになる。また火山の噴火から地震発生の予兆を捉えることも可能となるのだ。これが角田氏の唱える「熱移送説」の概略である。
実際に角田氏が示す3つのルートでは確かに近年でも地震が頻発している。①SCルートでは、08年5月に中国の四川大地震が発生し、今年11月にもチベット自治区でマグニチュード6.3の地震が発生している。また②PJルートにおいても、16年2月の台湾南部地震や16年4月から熊本県を中心に群発地震が起きた。
■地球規模での研究が必要
そして角田氏がいま最も警戒しているのが、③MJルートに係る伊豆半島。角田氏は「MJルート上にある伊豆・相模地域で、近々大規模な直下型地震が発生する」と見ているのだ。
③MJルートには、実際に小笠原・伊豆諸島のほぼ直線で約1700キロメートル続く火山列島が存在している。過去にも南から順番に火山が噴火するか、地震が発生しており、これは熱エネルギーの北上に伴ったものと考えられる。角田氏は「MJルートには約40年間隔で大規模な熱エネルギーが移送されており、4年前に起こった西之島の大規模噴火はその一環だ」としている。
小笠原諸島の西之島(東京都小笠原村・伊豆半島の南約1000キロ)は13年11月に海底火山の噴火により誕生した新しい島と、73年に誕生した旧島とが、一年以上にわたる噴火活動によって一体化した。この噴火活動によって旧来の西之島は面積が約12倍にも膨らんでおり、この噴火規模は国内では過去100年間で4番目の大規模なものだった。
その後、14年10月に伊豆諸島の八丈島(東京都八丈町・伊豆半島の南約280キロ)の東方沖でマグニチュード5.9の地震が発生したが、この二つの噴火と地震から分かるように、その大規模な熱エネルギーは着実に北上しており、伊豆・相模地域に迫っていると考えられるのだ。
伊豆半島周辺では1978年に伊豆大島近海地震(マグニチュード7.0、死者・行方不明者26人)、1930年に北伊豆地震(マグニチュード7.3 死者・行方不明者272人)が発生しており、その間隔は約40年だ。特に北伊豆地震は震度7の激しい揺れを伴い地震断層が採掘中のトンネルをふさいでしまうほど大規模なものだった。その痕跡は東海道新幹線の熱海―三島両駅間を繋ぐ丹那トンネルにいまも見ることができる。
12年に発生した青ヶ島(伊豆半島の南約360キロ)の火山活動と、13年に発生した箱根の大涌谷の小規模な噴火との関連に注目した角田氏は、青ヶ島と箱根の間の直線距離が約320キロであり、両地点の活動時期のずれが約20カ月であったことから、当該地域での熱エネルギーの移送速度は「1カ月あたり約16キロ」と測定している。
この移送速度を元に、角田氏は「2013年11月の西之島の火山噴火がもたらした大規模な熱エネルギーは、来年1月にも伊豆・相模地域に到達する」としている。
なお角田氏は今年中ごろまでは伊豆大島の火山噴火を懸念していたが、最近、伊豆大島の西側に小規模地震が多発していることから、「伊豆半島またはその近海で大規模な地震が発生する可能性が高い」との見解に至ったということである。以上が角田氏の警鐘だ。
筆者は角田氏のこの研究は、地震予測を可能にする一つの見方を示したものであり、大変貴重なものだと考えている。ただし現在、この「熱移送説」の研究は角田氏個人でしか行われておらず、今の段階では、数百年の期間の中で限られた地域で発生した火山・地震活動を追跡した結果に過ぎない。今後、角田氏は「地球規模で実証を続けて行く必要がある」としているが、当然、角田氏だけの力では限界がある。
角田氏はこれまで一般向けの解説書として『地震の癖―いつ、どこで起って、どこを通るのか?』『首都圏大震災 その予測と減災』を出版し、熱移送説を説明している。また今回の伊豆半島を警戒する角田氏の発言や日本の地震研究の問題点については、角田氏と筆者との対談書である『次の震度7はどこか?』に分かりやすく示している。
繰り返しとなるが、予測に絶対はなく、角田氏の研究もまだ途上ではある。いたずらに危機感や恐怖をあおるつもりは毛頭ない。地震は起こらないほうがいいに決まっているし、筆者もそう願っている。
それでも、その可能性を指摘する学者がいるのだから、念のために注意しておこう……それぐらいの心持ちでも構わないので、伊豆半島の方々には、家庭で出来得る限りの備えをしておいてほしいと思っている。
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