source : 2016.03.09 iRONNA (ボタンクリックで引用記事が開閉)
二月十六日、ジュネーブの女子差別撤廃委員会で、日本政府を代表し、外務省の杉山晋輔外務審議官は、軍や官憲による強制連行を確認出来る資料がなかったにも関わらず、慰安婦が強制連行されたという見方が広く流布された原因について次のように述べた。
①女性狩りの虚偽の事実を捏造して発表した吉田清治著『私の戦争犯罪』という本が、当時大手の新聞社の一つである朝日新聞社により事実であるかのように大きく報道され、国際社会にも大きな影響を与えた。
②「朝日新聞自身も、2014年8月5日及び6日を含め、累次にわたり記事を掲載し、事実関係の誤りを認め、読者に謝罪した。
③朝日新聞は2014年8月5日付の記事で、「20万人との数字の基になったのは、通常の戦時労働に動員された女子挺身隊と、ここで言う慰安婦を誤って混同したことにある」と自ら認めた。
このように、杉山審議官は、三度にわたって朝日新聞という固有名詞を出し、慰安婦問題の起こりを説明したのだった。朝日新聞という固有名詞こそ、この事実関係の核心である。
ところが、十七日付の朝日新聞の報道記事は、自社の誤報が国連で名指しされたことには一切触れていない。仮に自社の不名誉な内容の発言であるとしても、日本政府代表が新聞社の固有名詞を出して説明したのは客観的な事実なのであるから、それをスルーするのは、報道機関として失格だ。
さらに問題なのは、国連の女子差別撤廃委員会の議事録が、杉山発言の核心部分に当たる朝日新聞の名前を出さず、a leading newspaper in Japan (日本の大手紙の一つ)という表現で匿名化したことだ。しかも、朝日新聞の名前が二度目に登場する時も、議事録は、a leading newspaper というフレーズを繰り返した。そのため、奇妙なことが起こった。
「日本の大手紙」はもちろん何紙かあるだろう。だから、匿名化に際して初出で「a leading newspaper」とするのは当然だが、二回目以降は「the newspaper」としなければならない。なぜなら、ここに登場するのは、朝日新聞一紙だからである。議事録の新聞に関する言葉の指示対象は、あくまで朝日新聞である。ところが、英文でまた「a」を使ったため、もう一つ、別の「大手紙」が役者として登場しているかのような誤解を読者に与える結果となっている。
これは、日本政府代表が3回も名前を挙げた朝日新聞という固有名詞を消すという、作為的な議事録の改ざんが行われた結果である。その不正の痕跡が、不自然であるばかりか事実と離れた不正確な表現となって残ったのである。これは、国連の女子差別撤廃委員会の事務局の中立性に重大な疑念を抱かせるものである。
しかし、このような扱いは、国連の機関にとどまらない。朝日新聞に対する異例の批判をした日本の外務省も、この点に関して全く同じ流儀で資料を公表しているからである。すなわち、外務省のホームページには、日本文では朝日新聞という固有名詞が記録されているが、英文ではこれを公表していないのだ。 なぜ、朝日新聞の名前を公表するのを避けようとするのか。理由ははっきりしている。国際社会に、慰安婦問題が捏造された事実経過を知らせたくないのである。逆に言えば、朝日新聞の名前を出してこそ、世界の人々がこの問題の真相を具体的に理解することが出来るのである。
昨年の七月、国連対策に取り組んで来た民間団体「慰安婦の真実国民運動」による代表団の一環として、日本人の二人の女性が、発言した。山本優美子氏は英語で、杉田水脈氏はフランス語でスピーチをした。持ち時間はそれぞれわずか二分間。杉田氏は、吉田清治の嘘を朝日新聞が事実として報道したこと、朝日は記事を取り消していることを説明した。これについて委員の一人は「世界のメディアが知らされていたのとは反対の意見を聞いた。その意見の根拠を知りたい」と発言した。委員会は日本政府に説明を求め、それによって日本政府の今回の説明の機会が与えられたのである。
事態はこうなっている。日本の周りは巨大な壁で囲まれている。言語の壁である。壁の内側は日本語の世界で、ここでは朝日新聞の責任は誰もが知っている。しかし、壁の外側の世界には、巧妙に隠蔽された情報だけが流される仕掛けになっている。この仕掛けを維持する強力な意思が存在する。一月十八日の国会における安倍首相の、「性奴隷」などを否定した答弁も、壁の外の世界のメディアでは完全に黙殺された。作為は一貫しているのである。
この「言語の壁」の存在とその利用こそ、日本の慰安婦の真実が世界に広がらない決定的な装置となっている。この壁が崩れたとき、日本の名誉が回復する筋道が開かれることになるだろう。
10億円は朝日に負担させろ(笑)/『月刊 WiLL』 2016年3月号
source : 2016.03.09 iRONNA (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■違うなら議員を辞めろ
堤堯(ジャーナリスト) どうやら今年は、政治も経済も激動の一年になりそうだね。
久保紘之(ジャーナリスト) 「浜の真砂は尽きるとも、この対談のネタは尽きまじ」ってとこですか(笑)。
堤 まずは、新年早々の国会。十二日の衆院予算委員会を見た? 民主党の緒方林太郎が、「総理、総理は『拉致問題を利用してノシ上がった男』かどうか」と安倍に詰め寄る映像を見て、ホトホト呆れたね。
緒方の一連の質問は、蓮池透の著書『拉致被害者を見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)を引用しての質問だ。蓮池透は被害者・薫の兄で家族会の連絡事務長を務めたけど、のちに家族会を「追放」されている。家族会の総意が「北へのより厳しい制裁」を望むのに反して、「国交正常化が先だ」と意見を異にしたからだと聞いている。だから安倍は言う。
「その本には、家族会からも厳しい批判が出ていると聞いている。あなたは他の人にも取材しましたか。していないでしょ。北朝鮮は何かと日本の国論分裂を図ってきた。そういう質問をすること自体、北朝鮮の策謀に乗せられることになる」
編集部 緒方議員は、「蓮池氏がウソをついているのか」と畳みかける。対して首相はこう答えました。
「私はこの問題で偽りを言ったことはない。バッジを賭けていうが、私が言っていることが真実だ。違っていたら、私は国会議員を辞めますよ」
堤 報道では、安倍が血相を変えて反駁したというが、映像を見ればむしろ冷静に答えている。ただ、「違っていたら国会議員を辞める」とまでは言う必要がなかった。もっと大きなテーマを安倍は担っているんだから。
久保 まがりなりにも、緒方は外交官出身の政治家。安倍は怒りというより、あまりにも品位を欠いたレベルの低さに一瞬、絶望感に襲われたんじゃないかな。
ただし、「間違っていたら議員を辞める」と言ったあとに、「あなたが間違っていたら、議員を辞めよ」と言い添えるべきでしたね。
堤 そう、トルコの大統領エルドアン方式でね。プーチンが、「トルコはISから石油を密輸している。大統領の縁戚(娘婿でエネルギー相)が関係している。その証拠もある」と言った。対してエルドアンは、「証拠があるのなら出せ。大統領職を辞任してもよい。しかし事実でなければ、プーチンは職を辞める覚悟はあるのか」と反駁した。
久保 戦前、浜田国松は議会で行った彼の有名な反軍演説に対し、時の陸軍大臣が「軍人への侮辱である」と決めつけたことに反発、「侮辱した言葉があったら腹を切って君に謝る。が、なかったら君が腹を切れ!」と迫った。安倍も笑顔を浮かべながら、「君、腹を切る覚悟がありますかね」と言えばよかった。
堤 だいたい、五人の拉致被害者が帰って来たのだって安倍のお蔭だ。小泉純一郎の第一回訪朝で、金正日から「拉致被害者八人死亡」と告げられて、外務官僚の田中均はオロオロするだけ。協議は硬直したまま昼食の休憩となる。小泉はといえば顔面蒼白で、毒殺を怖れて持参した握り飯も喉に通らない。ただ窓の外を眺めるだけ。その場を救ったのが安倍だ。盗聴されているのを利用して、わざと声を大きくしてこう言った。
「総理! 拉致を認めて謝罪しないなら、席を蹴って帰りましょう!」
会議が再開されるや否や、金正日は拉致を認めて謝罪した。つまり、拉致問題に突破口を開いたのは安倍晋三の政治的反射神経なんだよ。安倍ほど早くから拉致問題に腐心した政治家はいない。この問題に先鞭をつけたのは、父親の外相・安倍晋太郎だ。言うなら父子二代にわたる懸案で、父親の遺志を継いでいる。
安倍がこの問題に取り組んだ頃、土井たか子は「北朝鮮が拉致なんてバカなことをするわけがないッ」と連呼していた。あげく土井は、拉致実行犯・辛光洙が韓国で逮捕・死刑判決を受けるや、菅直人、江田五月、千葉景子、村山富市、岡崎トミ子らと組んで助命釈放の署名運動をやる始末だ。いずれも社民、民主党の議員だ。安倍は彼らを「間抜け議員」と呼んだ。だいたい、民主党がこの問題で安倍を追及する資格なんて、どこを押してもない。
だから安倍が、「二十年前、私たちが一所懸命拉致問題をやっていたときに、あなたは何をしていたのか」と反駁するのも当然だよ。その頃、緒方は外務官僚だ。外務省が何もできなかったのを、安倍が切り開いたんじゃないか。話がアベコベだよ。
久保 拉致に関して言うなら、安倍は拉致問題対策本部が設置された時に「私の使命として、私が最高責任者であるうちにきちんと解決したい」と言ったでしょう。その後も記者会見などで「拉致問題は安倍政権で必ず解決する」と繰り返したけど、当時、僕はこの対談で「これはちょっとまずいんじゃないか」と言ってきた。なぜなら、これも心情倫理としてはわかるが、結果責任を問われる政治家の言葉じゃないからです。確たる根拠もなく国民に公約するなど、愚の骨頂なのですよ。
安倍は国民に公約したことで自らの手足を縛り、北朝鮮はそれを利用して安倍を揺さぶる。少し大げさに言えば、“生殺与奪”の権をこのキチガイ国家に与えたことと同じなのです。奴らは、そういう民主主義自由主義国家の弱点を巧みに衝いてくる。一方、「安倍は公約違反」「拉致問題を利用した」と攻撃する蓮池や緒方をはじめとする野党、それに朝日新聞などは主観的意図はともかく、客観的にはそうした北朝鮮の援護射撃の役目を担わされている、ということになるのですよ。
■ゼニ丸の杜撰な言葉遣い
堤 かつて小沢一郎が、「結局、これ(拉致被害者)はカネで買うしかない」と言ったという記事を何かで読んだ記憶がある。蓮池透も外国人記者クラブでの会見で、「拉致被害者一人奪還に十億円を支払う手もある、といった見方もありますね」と言った。小泉が一回目に訪朝したとき、一千万ドル(約十一億円)と二十五万トンの米を手土産にした。
日朝交渉の際に、北が必ず言い出すセリフがある。ゼニ丸こと金丸信が約束した四百億ドルはどうなっているのか、だ。金丸と金日成がサシで会った時のやり取りは、記録係を挟んでいないから公式文書として残っていない。本来なら、意味のない「約束」だ。なのに北は以後の日朝交渉で、「金丸さんが金日成主席と約束したじゃないか」と言い張る。
久保 金丸ってやつは言葉がいい加減でね、語録を見てみるとおかしなのがいろいろ出てきます。たとえば対米交渉の時に、「アメリカにノーと言われたらどうしますか」と言うべきところを、「アメリカにノーコメントと言われたらどうしますか」と言い間違えたことがある(笑)。
とにかく言葉遣いが杜撰。だからその時も、円とドルを言い間違えたんじゃないかな?
■北朝鮮の自称「水爆実験」
堤 ここで話を北朝鮮の「自称・水爆実験」に移そうか。腹が立つのは、過去三回の北朝鮮の核実験への対応と何もかもが同じということだ。やれ「各国と緊密に連携して」、やれ「より厳しい制裁処置を」といった文言を並べるだけ。
今回、「水爆だ、いやそうじゃない」という論争が付け加わったけど、そんなことはどうでもいい。北朝鮮は何が何でも「原爆を持つ」という意志を維持し、国連決議も制裁もどこ吹く風。これまでと同様の対応では抑え切れない。なのに繰り返しだ。
日本は二発の原爆を食らった。三発目を食らわないためにはどうするか。普通の頭ならそれを考える。核を抑えるには核しかない。核は抑止力でもあるが、恫喝力でもある。なのに「日本も核を持とうや」といった声が一つも上がらない。
久保 理科系の高校卒程度の知識があれば技術的にはできる、と以前、アメリカの科学専門誌に書いてありましたね。
堤 いざとなれば、国連もアメリカも頼りにならんよ。アメリカは北朝鮮の核を阻止してみせると言いながら、何もせずにズルズルと北朝鮮の核武装を許してきた。かつてキッシンジャーは、「いずれ日本も核武装するだろう」と言った。日本を取り巻く状況にまともに対応するなら、それを選択するしかないだろうという意味だ。
久保 韓国でさえ、野党の議員も新聞も「核兵器を保有すべきだ。核武装を議論しよう」と言い出している。日本でも、北朝鮮の最初の核実験の時は核武装論を唱える声が澎湃として起こったけど、今回は堤さんのおっしゃるとおり、さっぱりですね。
堤 加瀬英明に聞いた話だけど、彼はよくインドに行く。行くたびに、インド国防相の部屋を訪れる。数年前、それまでになかった写真が壁に飾ってある。広島の原爆ドームのカラー写真だ。聞けば、「核を持たなければこういう悲惨な目に遭うということを、毎日心に刻むために飾ってある」という答えだ。
日本にだって考えている政治家はいる。〇六年に北朝鮮が初めて核実験をしたとき、安倍と中川昭一が「日本も核の議論が必要だ」と発言した。その二人を、朝日新聞はじめ大手メディアは叩きに叩いた。しかし、まともなのはどっちなんだい?
久保 僕は心理的背景に興味があって、日本人は何か事が起きても、必ず「たいしたことにはならないだろう」という消極的・希望的観測が先に立つ。習近平の野望を目の当たりにしてもそうでしょう。これは、マッカーサー憲法によって日本人に植えつけられた最大の後遺症ですよ。
■タイムリーな政治決断
堤 かつて土井たか子が「北朝鮮が拉致なんてバカをするわけない」と言ったのも、そういった心理からだね。最悪の事態を考えるのが怖い、嫌なんだよ。しかし、最悪の事態を想定して対応するのが、政治家の一番の仕事じゃないか。
アメリカ在住の伊藤貫(国際政治・米国金融アナリスト)が、アメリカで「日本の核武装についてどう思うか」と聞いて回った体験を書いたことがある。向こうの高官の一人がこう言った。
「日本人がガタガタ言うんじゃない。お前らはMD(ミサイル防衛)で我慢しておけばいいんだ」
しかし、北朝鮮は日本全土に届くノドンを二百発も日本に向けている。五月雨式に撃たれたら、MDで防衛しきれるのか?
米ソの冷戦は、双方が核を持っているから、代理戦争にはなっても直接の熱戦にはならなかった。キューバ危機のときに明らかになったのは、核の威力は保有している核の数じゃないってことだ。あの危機はケネディとフルシチョフのポーカーゲームみたいなものだったけど、ケネディが「わがアメリカはソ連に十倍する核兵器を保有している」と豪語したのに対して、フルシチョフはせせら笑って「地球を壊滅させるほどの核を持つことに何の意味がある。こちらは十発あれば、NYをはじめ主要都市を破壊できる。それで十分じゃないか」と言った。
日本だって何十発もいらない。相手の主要都市をぶっ潰すだけの数さえあれば足りる。アメリカが文句を言うなら、アメリカには届かない弾道ミサイルしか持たないと言えばいい。北朝鮮や中国に届きさえすればいいんだからね。
久保 理屈としてはそうだけど、アメリカは持たせないでしょうね。
堤 いや、アメリカには日本の核武装を容認する人が結構増えてきていると聞いているよ。いずれにしろ、金正恩や習近平など、相手の気持ちをああだこうだと忖度しても始まらない。他人を頼らず、自分の身は自分で守る、それにはどうするかを考える時代になっているんじゃないのか。だけど、その種の議論が一向に起こらない。国も一個の生命体だ。生存本能の欠如というのかねぇ……。
久保 歴史にifは禁句だけれど、思考の補助線として引いてみるならば、もし安倍が日米同盟を深化していなければ、また日韓慰安婦合意をしていなければ一体どうなったでしょう。アメリカが守ってくれるのか、日米韓の連携が取れるのか、韓国は中国にひた走るのではないか、と韓国はもとより、日本でもおそらく与野党も戦後平和主義者どもも含めて列島騒然になっていたはずです。
元慰安婦の問題の政治決着については、自民党右派から「これでは河野・村山談話の撤回どころか追認だ」とか、保守派論壇でも「日本の名誉に禍根を残す」(西岡力)といった批判が強い。僕もそう思います。
しかし、日本はじめ東アジアにかかわる緊迫した国際政治のパワー・ポリティクスという観点からみれば、安倍の選択肢以外ない。しかも極めてタイムリーな政治決断だったと言えます。政治は原理主義を貫くだけではやっていけませんからねぇ。
堤 それは、あとで出て来る日韓合意の話の時に言おうと思っていた(笑)。日韓合意に対して、自民党のなかからも反対意見が出ていたけど、水爆実験が行われた途端に沈静化した。安保法制についてもそうだ。まさに安倍の先見性だね。
■建て前で責任逃れを
久保 ところが、野党や一部マスコミは「安倍はマッチポンプ、タカ派発言をやって日韓関係をこじらせ、それを今回修復しただけ」とか、「日韓ともにアメリカにケツを叩かれ、修復をやらされただけ」とかケチをつけるばかりで、安倍の外交的成果を可能な限り貶めようとする。マキャヴェリは『政略論』のなかで、次のように言っています。
「英雄がその業績に応じて受けて当然の名声を、人民は嫉妬のために奪い取ってしまう。しかも彼らのみならず、もう少し力量を備えた人々も一緒になって……」。
この言葉は、安倍のような優れた業績をあげた政治家とアホな野党との関係にも当然、当てはまるでしょう。
堤 その種の手合いは、いまの国際情勢をどう見ているのかねぇ。脅威があることはハッキリしている。もし安倍のやり方が駄目だというのなら、代案を出さなければならない。ところが、ひたすら反対を言うだけだ。口を開けば首脳外交を急げという。前提条件付きの首相外交なんぞ、やれるわけがない。無条件なら会うと構えて、相手の出方を待っていた安倍の態度が正解だよ。
■核を持つのは「主権保持」
久保 年末年始、テレビがつまらないから、前に一度見た『24 ─TWE-NTY FOUR─』をまた見ていたんだけど(笑)、テロと対決する連邦機関の捜査官、ジャック・バウアーは、いくら国側が遵法精神・法令順守、人権などを重んじても、テロリストに対しては何の効力もないし、テロを抑えるどころか奴らが好き放題やるための手助けをしていることになってしまう。
だからバウアーは法を逸脱して行動し、結果としてテロ行為を防ぐ。だが、上司も米上院もバウアーの功績を評価するどころか反社会的人物として徹底的に追及しようとする──。
もちろん法治国家である以上、大統領も捜査担当者も憲法や法律を遵守するのは当然の責務でしょう。しかし、現にテロリスト集団が原爆を盗んで数百万人の命を一瞬で奪おうとしている時、逮捕した仲間の一人から核を仕掛けた場所を聞き出すため拷問にかけるのは憲法上、禁じられているからできないとし、みすみす大都市が全滅する大惨事を招いたとしましょう。
それでも憲法上、法律上、拷問によって白状させることは禁じられているからやむを得なかった、と人権や民主主義の建前価値に固執する一部の野党や平和主義者、朝日新聞などは言い逃れするつもりなのですかねぇ。
『24』は、そういう問題提起をしているわけです。9・11以後、テロに怯えるアメリカ国民にとってこの物語は、いつ現実に起こっても不思議ではない切実な問題であり、いまやISのテロや傍若無人な習近平の中国、北朝鮮の核実験によって、日本でも無関係ではない話です。
ところが、先に成立した集団的自衛権など、安保法制にせよ、安倍が新設しようとしている緊急事態条項にせよ、野党やアホな憲法学者、一部メディアは、立憲主義だの法令順守だのと建前価値を振りかざして反対している。これら建前価値は結果として打つべき手を打たず、悲劇的な結果を招いた時の責任逃れの避難所なんですよ。お前ら、口を閉じてまず『24』を見て勉強しろ!(笑)。
堤 〇八年、プーチンは「核を保有しない国は主権国家の名に値しない」と言った。言い換えるなら、核クラブ五カ国だけが「主権」を保持しているということだ。核保有国が既得権を手離さないのは当然で、NPT(核不拡散条約)は「俺らは持つけど、お前らは持つな」という縛りで、プーチン流にいうなら「オマエらは主権を持つな」と言うに等しい。
しかし、「主権」を獲得・保持するのは国の気構えしかない。インドもパキスタンもそれをやってのけた。イスラエルも隠れ保有国だ。ドイツはアメリカから核をレンタルしている。このあたり、日本もよくよく考えないといけないね。
久保 その核武装論は一つ落とし穴があって、北朝鮮が核を持つ論理を否定できなくなる。彼らは彼らの主権として核を持ってどこが悪いんだ、と。現に金正恩は、「核実験は国の独立自存のための権利」と演説しています。
堤 そのとおりだ。俺は前から、「北朝鮮が核を持つのは悪い」とは一度も言ってない。むしろ天晴れだと思っているよ。
久保 でも現実には北朝鮮の核武装は、アメリカや周辺国を脅して外交的優位に立ち、経済的利益などをせしめようという強盗の論理なわけですからね。
それと、これは安倍の直接的な責任とは言えないけれど、日米同盟を深化したことによって、日本人の多くは「アメリカが対応してくれるのなら日本が核武装する必要はない」という安易な考え方に戻って、自立のための核武装論が出てこなくなっていることです。
堤 だけど安倍こそ、一番核武装の必要性を理解しているんだ。彼の祖父・岸信介は専守防衛の小型戦術核は憲法違反ではないと発言し、新聞は大騒ぎした。後年、安倍が官房副長官の時に早稲田大学の講演で質問されて、「私もそう思う」と言い、またぞろ大騒ぎになった。ことほど左様に、祖父の遺志を腹蔵しているんだよ。
■暗殺で現状打破?
久保 北朝鮮の自称・水爆実験に、中国がどう動くかも注目すべきですね。
堤 朴槿惠は中国の対応に不満を表明し、「追加の核実験を防ぐには中国の役割が重要だ」と談話で述べた。アメリカも中国に期待していると言っている。対して中国の報道官・華春瑩は、「そういうあなたがたは、これまで何をしてきたんですか」と言ってニヤリと笑い、「中国だけに責任を負わせないで下さい」と言った。
中国は三回目の核実験に対し、国連の経済制裁に賛成した。なのにその後、中朝貿易は過去最高の額に達している。今回だって、中国は公には北朝鮮を非難する。これはAIIBや人民元のSDR入りなど、経済面から欧米とうまくやっていかないといけないからだ。だけど国営放送などを見ると、起こった事実を淡々と述べるだけで、論評は一切加えていない。
かつてCIAのトリプレットは、「北朝鮮は中国のナイフだ」とする本を書いた。今後も“ナイフ”として使うのか、それともこの刃が自分に向くかもしれないと危惧し始めたのか、いずれ言葉より行動に中国の本音が表れる。
久保 北朝鮮は潰せばいいというものではない。アメリカにとっても中国にとっても、ある意味では日本にとっても、厄介だけれど当面ないと困る国と言えます。
そうした前提で現状を打破する有効な手段を考えてみると、辿り着くのはただ一つ、金正恩排除、つまり暗殺ということになってくるんじゃないですかね。奴はヒトラーと同じで、国際社会・国際外交の常識に全くかからない、いわば狂人。
ヒトラー暗殺未遂は内部クーデターだったけど、一説には連合国と連絡を取り合っていた。習近平の中国は兄貴の金正男というカードを持っているから、傀儡政権を作ればいまの国の形をそれなりに温存しながら、もう少し穏健な型でコントロールできるようになる。
堤 アメリカが「俺たちはビン・ラディンを殺した。中国は金正恩をやってくれ」と頼むか(笑)。
中国が恐れているのは、北の“ナイフ”がロシアと繋がることだ。もともと、ソ連の核科学者が北朝鮮に原発造りを教えたんだからね。仮に米中が北朝鮮の核をめぐって接近するとなると、プーチンはどうする? 国際情勢が複雑になっていく。
久保 とにかく、それくらいの策(金正恩暗殺)を練らないと、北朝鮮が参加した六者協議なんてのでは永遠に問題は解決しませんよ。
■日韓基本条約の裏側
堤 さて、日韓慰安婦合意に話題を変えようか。先ほど言ったように、党内からも反発があったし、ウソかホントか、安倍のFacebookは批判のコメントで炎上しているという。
たしかに岸田外相が、軍の関与がどうのと、河野洋平みたいにいわずもがなのことを言った。彼は、河野洋平が代表を務めた宏池会だからね。
今度の合意で一番注目すべきは、「慰安婦問題の最終的、不可逆的な解決を確認する」ということだ。韓国側の要求は謝罪、金銭支援、法的責任を認めろ、という三点だ。日本は法的責任を認めない。認めるわけがない。残る二点でカードを晒し、これで双方が最終合意した。
これで問題は、韓国側が約定を履行できるかどうか、いまや韓国内の問題になってしまった。実際、韓国では激しい議論になっている。韓国の担当官が慰安婦の住む家を訪れ、一昨日来いと放り出された。そこへ朴槿惠も説明に行くと言っている。朴槿惠にすれば、実に苦しい立場に追い込まれた。自業自得だけどね。
一九六五年に結ばれた日韓基本条約は、「今後、両国間に一切の貸し借りはないものとする」という条文が定められた。いわゆる「個人補償」も含めてだ。大統領・朴正煕の特使として条約の準備に当たった金鍾泌(のちに首相)に、青瓦台で会ったことがある。
彼によれば、特使として来日、外相・大平正芳とサシで交渉した。大平が「いくら欲しいのか」と訊くから、「八億ドル欲しい」と持ちかけた。朴大統領から「できるだけ高く吹っかけてみろ」と言われていたからだ。
大平はビックリして、椅子から飛び上がった。それもそのはず、当時の日本の外貨準備高は十八億ドルで、その約半分だったからだ。結局、韓国は日本から五億ドルのカネと技術協力の約束を取り付けた。
実はこれ、ケネディの差し金がある。日本はケネディから、アメリカはベトナムで手一杯だ、韓国の面倒を見てくれといわれていた。ケネディは六三年に暗殺されたけど、この要請は続いていた。だから、虎の子の十八億ドルから五億ドルも出した。
ところが韓国では、「五億ドルでは少ない。おまけに日本の議会では賠償金ではなく、経済協力金と言っているではないか」と騒ぎになり、暴動に発展した。朴正煕は軍隊を動員して鎮圧。たしか一千人を超える死者を出したと記憶する。問題は五億ドルの使い道だ。金鍾泌は「大統領、一部を個人補償に回しましょう」というが、朴正煕は「いや、このカネは挙げて経済復興に使う。個人補償は国が豊かになってからでいい」と答えた。
そして五億ドルを財閥育成に投じ、「漢江の奇跡」と呼ばれる経済復興を成し遂げた。「おかげで韓国は世界で十一番目の経済大国になりました」と金鍾泌は言うが、個人補償は置き去りだ。事情を知らない慰安婦や徴用工らが、補償を求めて日本の裁判所に訴える。もちろん、門前払いだ。そこで「慰安婦、徴用工は別口だ」となる。
すべては朴正煕が残した「負の遺産」なんだよ。父親の尻拭いは娘の義務じゃないか。それに慰安婦像の撤去一つを取っても、朴槿惠が父親のような強権をふるえるか。怪しいもんだ。
久保 尻拭いする前に、朴槿惠は大統領を辞めちゃうんじゃないですか。
■日本をスケープゴートに
堤 NHKの世論調査でも、慰安婦問題が今後、日韓の懸案となると思うかという問いに、「今後はない」が八%、「今後もある」が五九%だ。六割の日本国民が、またぞろ問題になると思っている。
しかし韓国が慰安婦問題を蒸し返したら、国際的に終わりだね。「不可逆的な解決」を国際的にアナウンスしているから、またぞろムシ返したところで誰も相手にしない。
久保 “行かず後家の踏ん張り”もここまでってことか(笑)。
堤 ガハハ、言い得て妙だな。歴史カードを振りかざせば、ブーメランのようにテメエに降りかかってくる。
久保 注目すべきは、いまやこの慰安婦問題の構図というのは、日韓だけに留まらないということです。つまり、アメリカでもヨーロッパでも人道・人権を振りかざして、あたかも「日本だけが性犯罪を行っている」として非難を繰り返す。
日本だけに押しつけることで、欧米各国は過去に自分たちが犯した遙かに悪質な女性虐待の罪から逃れようとしているわけです。つまり、日本をスケープゴートにしている。だから、この問題が日韓合意だけで決着がつくとは思えない。
堤 なぜ、いまこの時期に朴槿惠が合意したか。近づく選挙対策でもあったけど、アメリカのプッシュが大きかったからだろうね。
では、なぜアメリカがプッシュしたか。昨年、韓国人女性ら百二十二人が、米軍相手の慰安婦として強制的に駆り集められて働かされたとして、韓国政府を相手に国家賠償を求める訴訟を起こした。借り集めの書類には朴正煕の署名がある。娘の朴槿惠に降りかかってくる。アメリカにしても、このまま日韓の慰安婦問題を放っておくと自分たちにも降りかかってくると考えたに違いない。
アメリカは日本でも、占領軍相手の性的慰安所の設営を政府に命じている。大蔵官僚の池田勇人(のちに首相)が予算の一億円を工面した。そして作られたのが、特殊慰安施設協会(通称、RAA)だ。
一方、韓国だってタイガー部隊五万人、のべ三十万人がベトナム戦争に出かけ、ベトナム女性を強姦しまくって、ライダイハンと呼ばれる混血児を三万人も作っている。これが補償を求めたらどうする。全部跳ね返ってくる問題だ、とようやく気付いたんだね。
久保 それはヨーロッパも似たり寄ったりですよ。たとえばクリスタ・パウルの『ナチズムと強制売春』(明石書院)によれば、ナチはユダヤ人の女性を強制収容所特別棟に収容し、組織的な売春をさせていた。その“恩恵”を受けた者のなかには抵抗運動をやって捕まった政治囚も多く、どうやらそいつらのなかには、のちのヨーロッパ各国の再建に貢献した者も含まれている、なんて話がどんどん白日の下に曝されつつあります。
ヴァイツゼッカーもメルケルもそういった事実に蓋をして、キレイゴトをぬかしている。その言葉に欺かれたアホな日本人が、「ドイツを見習え」と叫んでいたわけです。
編集部 日韓合意について、朝日と毎日が肯定的に、読売と産経が批判的に報じていました。
堤 朝日としては、もう従軍慰安婦問題に蓋をしたい。「これで終わり」になれば、今後、話題にならず、朝日も責められずに一息つけるからだよ。仮に慰安婦像が撤去されて十億円を出すことになったら、朝日に負担させるべきだな。なにしろ、三十二年にわたってウソ八百を垂れ流してきたんだからね。十億円でも足りない。名誉を汚された日本人への慰謝料はどうしてくれるんだい。
久保 韓国がまた蒸し返したら、一番困るのは朝日かもしれませんね(笑)。
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