source : 2015.11.05 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
韓国の鉄鋼最大手ポスコが“パクリ”のツケを払わされた。新日鉄住金からの技術盗用をめぐる訴訟で支払った和解金が経営を直撃し、今年7~9月期の連結決算で最終赤字に転落したのだ。韓国企業は2000年代半ばから飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を遂げてきたが、その裏では「産業スパイ」の暗躍も指摘されてきた。ポスコの“凋落”はもはや、そんな手口が通じないことを知らしめている。
■697億円の赤字
「創業以来、最大の試練」。韓国紙はポスコの現状をこう報じている。
朝鮮日報によると、同社は10月20日、今年7~9月期の最終損益が連結ベースで6580億ウォン(697億円)の赤字だったと発表した。円安による為替損失(3800億ウォン)や保有鉱山の評価損(3880億ウォン)と並んで、新日鉄住金に対する和解金2990億ウォン(約317億円)が響いた。
ポスコが和解金を支払ったのは9月30日。新日鉄住金も同日、日本と米国で起こしていた訴訟を取り下げ、和解の成立を発表した。
訴訟対象となっていたのは、電気を家庭に送る変圧器などに使われる「方向性電磁鋼板」。新日鉄住金は新日本製鉄時代の12年4月、同社の複数の元社員からポスコが技術情報を不正入手したとして、不正競争防止法に基づき986億円の損害賠償や製造販売差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こした。このほか、米ニュージャージー州連邦地裁にも同様の訴えを提起していた。
和解について新日鉄住金は「所期の目的を一定程度満たすに足る条件を確保できた」としている。ポスコによる方向性電磁鋼板の販売を制限できるほか、同社からの技術使用料収入が見込めるからだ。
ハンギョレ新聞によると、両社はポスコが今後、同鋼板の輸出の際に技術使用料を新日鉄住金に支払い、地域別の輸出量も協議して決めることで合意した。
ポスコにとっては、業績への打撃は一時的なものにとどまらないことを意味する。折から、同社は安価な中国製鋼材との競争にもさらされており、日中メーカーに挟み撃ちされて埋没しかねない状況だ。
ポスコは15年に2兆ウォン(約2100億円)の最終利益達成を目標に掲げているが、逆に「3000億ウォン(約310億円)程度の赤字も予想される」(ハンギョレ新聞)という。
■動かぬ証拠
問題となった方向性電磁鋼板は電力インフラに欠かせない変圧器の心臓部である「鉄心」に使われ、技術の粋を凝らした“鉄の芸術品”ともいわれる。旧新日鉄の独壇場だったが、05年ごろからなぜかポスコの製品技術が急激に向上し、シェアも拡大してきた。
ポスコの技術盗用疑惑が浮上したのは07年。韓国・大邱での刑事訴訟で、ポスコの機密情報を中国メーカーに流したとされるポスコ元社員が「技術は、もともとは新日鉄のものだ」と衝撃的な証言を行った。
旧新日鉄は、製造技術を持ち出したとされる元部長級社員の自宅から、ポスコとの通信履歴などの証拠を裁判所を通じて確保した。この「動かぬ証拠」が法廷でも大きな武器となった。
そもそも、ポスコにとって旧新日鉄は「育ての親」ともいえる存在だ。ポスコは1960年代、旧新日鉄の前身である八幡製鉄や富士製鉄から技術供与を受けて設立した。2000年には、旧新日鉄と戦略的提携契約を結んでいる。
ポスコの窮状は自前の技術を育ててこなかったツケが回ったともいえる。裏切りの代償は高く付いた形だ。
■大半が泣き寝入り
「あなたの持っている技術を売りませんか。数億円を支払う用意があります」。経済産業省の調査によると、学会や講演会で著名な日本の技術者に目星を付け、接触するのが産業スパイの手口の一つだ。技術者は勤務先の企業から製造ノウハウなど技術の根幹部分を持ち出し、退職後に売り渡す。
1990年代以降、大手企業が相次いで実施したリストラで、技術者が韓国や中国の競合企業に転職したことも不正な技術流出の要因になったとみられている。経産省の調査では、流出先として中国、韓国を挙げた例が多く、回答企業の5割が中途退職者を通じた流出を指摘した。
不正な技術流出をめぐっては昨年、東芝が韓国のSKハイニックスに半導体データを盗まれたとして提訴し、韓国側は和解金として約330億円を支払った経緯もある。
ただ、これまで大半の日本企業は情報流出が疑われる事例を前に「証拠が手に入らない」として、泣き寝入りを余儀なくされてきた。
新日鉄住金とポスコの訴訟は政府が産業スパイの横行に歯止めをかける契機にもなった。今年7月に成立した改正不正競争防止法では、外国企業への漏洩について厳罰化し、最大で10億円の罰金を科すことにした。被害を受けた企業の負担を軽減するため、相手企業に不正に技術を取得した事実がないことの立証責任も負わせた。新日鉄住金とポスコの訴訟が高額の和解金を伴う形で決着したこととあわせて、スパイ行為の抑止力となりそうだ。
とはいえ、自社技術を守るのは、あくまで企業自身であることは今後も変わらない。技術流出で競争力を失う事態を防ぐには、被害を受けた企業が毅然と対応することが不可欠となる。
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