source : 2009.11.26 東京大学宇宙線研究所付属「神岡宇宙素粒子研究施設」
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11月25日に、行政刷新会議事業仕分け作業が「国立大学運営費交付金(2)特別教育研究経費」に対して行われ、評定が出されました。「廃止6名、縮減6名、要求どおり2名」との結果を受け、仕分け作業グループの見解として「予算の縮減」ということが示されました。この「特別教育研究経費」の中には、我々が、神岡の地下において推進している「スーパーカミオカンデ」や、国立天文台の「すばる望遠鏡」、高エネルギー加速器研究機構の「JPARC」「B―factory」など、日本を代表する基礎科学研究が含まれています。しかし、研究の意義などは一切議論がなされぬまま、予算全体を一括して縮減しなさい、ということになりました。
スーパーカミオカンデは、ニュートリノ振動の発見により、世界で初めてニュートリノに質量があることを示し、新たな素粒子標準理論構築への突破口を与えています。現在、未発見の最後のニュートリノ振動ともいうべき現象の発見をめざし、東海村のJPARCで作られたニュートリノを、295km離れたスーパーカミオカンデで検出するという壮大な実験が始まっています。この観測に成功すれば、宇宙には、何故反物質がなく物質しかないのかという、物質生成の謎に迫るステップを築くことができます。また、スーパーカミオカンデは、明日にも起こるかもしれない星の最後の爆発である超新星からのニュートリノの飛来に備え、24時間365日、年末年始も休みなく観測を継続しています。このように、これまでのニュートリノ質量の発見という大きな成果のみにとどまらず、今後もいくつかの重要な成果が期待されています。
予算の縮減により、観測が短期間でも止まるようなことになれば、10年から20年に一度しかない超新星からのニュートリノの検出を逃してしまう可能性もあります。また、予算の縮減により、測定器の質を維持することができなくなる可能性もあります。これまで、10年以上かかって、世界のトップになった日本のニュートリノ研究は止まってしまい、継続する研究者も絶えてしまうことでしょう。落ちるのは、早く、瞬く間に科学の2流国、3流国になってしまうでしょう。一度そのようになれば、世界のトップレベルにもどるには、さらに10年、20年とかかることになります。
基礎科学は短期的には、何も役に立たないものと思われるかもしれません。基礎科学は「分からないこと、不思議なことを探索して、真実を知る」ということが本質ですが、何十年か経った後に、思わぬところで役に立つこともあります。80年ほど前に、原子核のふるまいを研究して生まれた量子力学は、今では、半導体の原理を理解するにはなくてはならないものです。アインシュタインの作った一般相対性理論は、90年経って、カーナビゲーションシステムでお馴染みのGPSの基礎を支えています。
スーパーカミオカンデで行っているニュートリノ研究も、今は、物質の成り立ち(素粒子)と宇宙の謎に挑戦していますが、100年後には全く考えもつかなかったものに応用されているかもしれません。皆様の基礎科学研究に対するご理解とご支援を、強くお願いいたします。
2009年11月26日
スーパーカミオカンデ実験代表者 鈴木洋一郎
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