source : 2013.11.09 週刊ダイヤモンド (ボタンクリックで引用記事が開閉)
徹底した「二番手商法」によって、日本メーカーのみならず米アップルまでもしのぐ存在にまで成長した韓国サムスン。しかし、その栄華の裏では、負う立場から追われる立場に変わったことで、次なる一手に悩んでもいる。知られざるサムスンの「真の姿」と、直面する課題をあぶり出した。
まるで〝神隠し〟のように姿を消してしまった」──。
2012年春、ハイテク業界で働く関係者たちの間で、ある有名エンジニアの退社が話題になった。
それはキヤノンの開発センター室長を歴任した男で、デジタルカメラの〝絵づくり〟のノウハウが詰まった半導体を担当していることで知られていた。保有特許も数十個に及び、経歴書には「画像処理装置」「映像装置」「電子カメラ」などの文言が並ぶ。
調査を依頼されて、足跡を追いかけた人材会社の関係者は語る。
「サムスンにヘッドハントされたとみていますが、決定的な証拠がつかめずに困っています。韓国語名で働いている可能性もある……」
サムスンは日本人技術者を引き抜いたこと自体を隠すために、時として韓国語の通り名と名刺を渡して雇用することがあるのは、よく知られた話だ。
「サムスンへの転職が自分の出身企業にどうしても知られてはまずい場合の方法です。他にも故郷や地元のコミュニティの目が気になり勤め先を隠したい人もいます」(ソニー出身の元サムスン社員)
声をかけてくるタイミングも絶妙だ。冬のボーナスが支給された後の12月や、人事異動が発令される春などを狙って、職場環境などに悩みがある人材をピンポイントで狙ってくるという。
「サムスンの人事は社内の各部門にいつも顔を出して、弱い部分を聞いて回っています」(サムスンの元日本人顧問)。そのため、現場目線の的確な人材に声をかけられるのだ。トップ級の人材は5年、10年と待ち続けている例もある。
サムスンへと渡った日本人技術者たちは多くを語らない。日本の技術をキャッチアップして日本企業を壊滅させてきた競合メーカーなのだから、それも無理はない。
しかし、本誌は今回そのタブーを破り、今まで謎に包まれていたサムスンの日本人技術者たちに迫る独自調査を敢行した。
日本人が出願したサムスンのエレクトロニクス関連特許を一つずつ点数化し、技術者ごとに合計。さらに、技術者の過去の特許出願先から出身企業を割り出し、どの出身企業のどの専門分野の日本人が、サムスンにとって価値のある特許を出してきたのかを分析した。
それをトップ50のランキングにしたのが、左の表だ。
出身企業として日本の電機メーカーが多く名を連ねるが、旧三洋電機も合わせると、パナソニック出身者が6人と最も多い。次に多いのがキヤノン、NEC、コニカミノルタで3人ずつだ。
一方、技術者の専門分野も多岐にわたるが、デジタルカメラが6人と最多。まだ日本がサムスンに勝っているといわれる数少ない分野の一つ、光学分野がトップというのは非常に興味深い結果だ。
デジカメ技術者たちのサムスンでの特許出願期間を見ると、最近も出願している人がほとんどのため、今もサムスンに在籍している可能性が高い。日本をキャッチアップするために、近年重点的に人材獲得に力を入れてきた結果が表れたのかもしれない。
さらに直近で言うと、「サムスンはジェスチャーなどのユーザーインターフェース分野に注力している」(知的財産アナリストの武藤謙次郎氏)という。
買収される社員 300万円で内部資料が流出
日本人技術者がサムスンへと流出してしまうことは、二重の意味で日本企業に打撃を与えてきた。一つは当然、技術者自身と日本企業の知識やノウハウがサムスンの手に渡ることだが、さらに深刻な事態が発生している。
「サムスンへ転職する日本人の中には、〝お土産〟をどっさり持って韓国へ渡っている人もいます」
あるサムスン日本人技術者は、そう暴露する。決して日本人同士で打ち明けたりはしないが、サムスンで生き残るための切り札として、辞める際に勤めていた日本企業の内部資料を持ち出しているというのだ。
もちろん、これは見つかれば即アウトの違反行為だ。しかし、最近日本の家電メーカーからサムスンに転職してきた複数の技術者たちによれば、いまだに「内部資料をハードディスクに丸ごとコピーして、いとも簡単に持ち出せてしまう」状況なのだという。
そんなセキュリティの甘さだから、サムスンへの転職者以外からも機密情報が漏れ出している。
ある人物は、部外者にもかかわらず日本を代表する家電メーカーの内部資料を入手することに成功したという。その方法とは、「1ドキュメントいくらという交渉で、社員を買収して持ち出させる」という禁断の手だ。
「蛇の道は蛇。見極めが難しいが、絶対に会社へ通報しないと思われる、モラルが低そうな社員を見つけて声をかける」のだと声を潜める。そのときは300万円ほどの報酬で、まとまった内部資料を手に入れたという。最終的に、その資料はサムスンの手に渡ったのだ。
転職者、社員の倫理観が問われる問題ではあるが、経営者たちのマネジメント不足が情報流出を招いている側面も否定できない。
「日本企業は技術者への評価が低過ぎる」。これはサムスンに渡った技術者はもちろん、日本企業からも聞こえてくる不満の声だ。サムスンはその間隙を縫ってヘッドハントを仕掛けてくる。
また、「サムスンの情報管理が厳しいというが、日本企業が緩過ぎる」(サムスン技術者)という指摘も多く見受けられる。
貢献度に応じた適切な技術者の評価と、情報管理の問題。これらの情報流出リスクをコントロールしなくては、サムスンに手の内をさらけ出したまま戦うことになってしまう。そして、残念ながら多くの日本企業が今まさにその状況だ。現状ではサムスンとまともに勝負することすら、おぼつかない。
韓国のGDPの2割を超える存在 過去最高益の裏にある「限界」
今週号では、韓国サムスンを特集しました。
サムスングループは、エレクトロニクスメーカーのサムスン電子、電子部品を製造するサムスン電機、2次電池を製造するサムスンSDIの他、造船や建設、石油化学に加え、生命保険会社のサムスン生命や証券など金融業も併せ持つ、韓国最大の財閥企業です。グループ売上高は約30兆円で、これはなんと韓国のGDPの2割を超える規模です。
特にスマートフォン「ギャラクシー」などで知られるサムスン電子は、売上高20兆円を誇るグループの中核企業。スマホのシェアではアップルを抜いて世界トップに立っています。スマホ以外にも、薄型テレビや半導体などで、日本メーカーを中心とする名だたる競合を打ち破ってきました。
その手法は、徹底した“二番手商法”というべきものです。日本企業が得意としていた半導体や液晶パネル、テレビなど家電製品を分解・解析し、要素技術を明らかにする「リバース・エンジニアリング」や、合弁会社の設立や技術者の引き抜きなどの“技術移転”によって、さまざまなかたちでライバルを丸裸にし、次々に世界1位の座を奪っていったのです。
冒頭で紹介した記事のように、情報力の点でも、目的達成に向けた執念の点でも、日本メーカーは完敗です。特集では、現役サムスンマンの覆面座談会なども敢行し、知られざるサムスンの“真の姿”をあぶり出しました。
サムスン電子の第3四半期の営業利益は、過去最高の約9600億円となりました。世界のエレクトロニクス産業のトップに立ち、我が世の春を満喫しているように見えます。
しかし、その隆盛の裏側で、難問に直面しているのも事実です。
一つは外部環境の変化。サムスン電子の売上高の7割を占め、アップルさえ超えるほどの存在となったスマホですが、すでに市場は飽和に向かっており、この先の成長は大きく疑問視されています。
何より、これまで徹底した二番手商法で急成長を遂げてきたサムスンが、逆に追われる立場になり、今後は自らが新しい道を切り開いていく存在となったことで、その戦略には大きな転機が訪れています。
そしてもう一つ、グループ内部の懸念要因としては、この巨大グループを支配する創業家の世襲問題があります。
創業家2代目の李健熙会長は、長男の在鎔氏への世襲を考えているようですが、資産総額約30兆円という巨大なグループを息子に託すには、莫大な〝相続税〟が必要になります。その額は「1兆〜2兆円」とも言われ、それに伴ってグループの分離・分割という事態も起こりうる状況です。
また韓国内では、サムスンとその創業家のあまりの一人勝ち状態に、不満も渦巻いています。にもかかわらず、特集ではサムスンの半導体工場で起きた白血病被害に関する事件を詳しく取り上げましたが、韓国内ではメディア企業をも保有するサムスンに関して、表立った批判はできない環境があります。そんな実態も明らかにしました。
とにかく韓国のみならず、米国にまで及んだ地道な現場取材を通じて、過去最高益の裏側に横たわるサムスンの経営課題に徹底的に迫りました。
こんな特集、他では読めません。それだけは保証します!
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