source : 2013.10.06 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
「歴史認識」をめぐり、日本をおとしめようとする動きが収まらない。今月上旬にインドネシア・バリ島で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場でも、中国や韓国は歴史問題を理由に日本との首脳会談を拒否した。日本が事なかれで対処してきた間に、中韓両国内だけでなく、国際世論に影響を与える米国を舞台に誤った歴史認識の“事実化”が進んでいる。
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雲一つない秋空が広がった9月14日午後、米カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のソノマ州立大のキャンパス内にある湖のほとりで「太平洋戦争追悼碑」の除幕式が開かれた。石碑には英語と中国語で「太平洋戦争の犠牲者を追悼して」と刻まれていた。
「太平洋戦争とは『忘れられたアジアのホロコースト(大量虐殺)』なのです。約3500万人という犠牲者数は、現在の米国で人口の多い約25都市をあわせても及びません」
100人を超す出席者の前でこう訴えたのは同大教授のジーン・チャン。戦時中に中国・広東で幼少期を過ごしたというチャンの専門は数学だが、大学の社会人教育授業で、日本兵に銃口を突きつけられたという自分の体験を交えながら日中戦争について教えている。
全米主要都市にはユダヤ人大量虐殺に関する博物館があり、米国民がホロコーストを学ぶ機会も多い。チャンがまったく性質の異なるホロコーストと旧日本軍による行為を結びつけたのは、日本がナチス・ドイツと同様に「犯罪国家である」と印象付けるねらいがあるとみられる。
続いて演説したチャンの夫のピーター・スタネクも「われわれの目的は日本軍の歴史について理解を深めることだ。平和はいま存在しない」と語気を強めた。
「日本食は口にしない」(チャン)というスタネクは、米国において反日キャンペーンを展開する「世界抗日戦争史実維護連合会(抗日連合会)」の会長を務める。1994年に設立された抗日連合会で初の非中国系会長である。
同州に本部を置く抗日連合会は南京(虐殺)、捕虜虐待、731部隊、慰安婦などについて「日本に謝罪させ、賠償させる」ことを主目的としている。
戦犯裁判や対日講和条約での日本の責任受け入れを一切認めない点で明白な反日組織である。2007年に米下院で慰安婦決議を実現させるなど、全米でみられる反日運動の主導的役割を担う存在といえる。
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式典を取材していた記者を至近距離からカメラで撮影していた男性がいた。抗日連合会副会長のイグナシアス・ディンだった。
「産経新聞に文句をいうのではなく、話をしたかった」と取材に応じたディンは「中国政府のためにやっているって? そんなことありえない」と大声で笑った。もともと中国の民主化運動を支援していたとし、「共産主義は大嫌いだ」と強調した。
だが、「中・韓『反日ロビー』の実像」(PHP研究所)を執筆した産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久は、「抗日連合会は中国当局と一体になっており、中国の意向を受けて活動しているのは間違いない」と語る。
抗日連合会は02年1月に上海の華東政法学院(大学)で「第二次大戦賠償問題に関する国際法会議」を開いたが、古森は「当局の協力なしにこのような会議を開けるはずがない」と指摘する。
この日の式典には、在サンフランシスコ中国総領事館副領事の宋如安も出席した。
「第二次大戦後の秩序は維持されなければならない。それを覆そうとするいかなる試みにも反対する」
あいさつした宋は出席者から拍手を浴びた。約40分続いた式典は中国で抗日歌曲として代表的な「松花江上」の合唱で幕を閉じた。
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除幕式では、27枚の石板もお披露目された。
「南京で虐殺された30万人の犠牲者を追悼する」「日本よ、旧日本軍にレイプ、殺害された人々に謝罪を」などと刻まれている。
近くにあるのは、ナチス・ドイツに殺害されたユダヤ人少女「アンネ・フランクの木」と呼ばれるマロニエの苗木。その前にはホロコーストを象徴する線路が敷かれている。枕木の代わりに並べられた石板にはホロコーストのほかアメリカ先住民やカンボジア人などの虐殺が刻まれている。
1枚250ドルの石板を購入した人たちがメッセージを読み上げる度に、鐘の音がチーンと鳴り響いた。
ディンによると、抗日連合会の組織化にあたってモデルにしたのが「世界ユダヤ人会議」だ。同会議は「ホロコーストの記憶が忘れ去られないよう努力し犠牲者らのために正義を求める」活動をしている。
抗日連合会は同会議を手本に、北米や欧州、アジアなど約50の支部を持ち国際的な活動を展開している。
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ディンは「9月18日を忘れるな」とのロゴの入った黄色いポロシャツを着ていた。9月18日は満州事変の発端となった1931年の柳条湖事件が起きた日だ。
中国国民党指導者の孫として43年に中国・重慶で生まれたディンは台湾の大学を卒業後、米国に渡りIBM社やヒューレット・パッカード社で働いた。89年の天安門事件後、民主化支援を始めた。日本の戦争責任に目を向けるようになったのは、91年にカリフォルニア州サンフランシスコ近郊で開いた会合で、中国系の高齢者から「封印した記憶を呼び覚ましたあなたの責務は重い」と言われたからだという。
抗日連合会の発足にあたり、ディンらは94年12月、同州クパチーノで国際会議を開催した。初日の会合後、ディンのもとにポニーテールの見知らぬ女性が現れた。26歳のアイリス・チャンだった。
「『南京大虐殺』の話は聞いていたが写真をみたことはなかった。本を書きたいので資料を貸してほしい」。こう持ちかけたチャンを当初いぶかったディンだが、その夜、ほかの仲間とチャンを囲んで作家としての英語力や意思を確認。その場で「アイリスに翌日発表する運動方針を書いてもらった」という。
チャンとディンがつながったことは「日本の戦争責任を求める動きにとって分岐点になった」と、米国人ジャーナリストは振り返る。97年に出版された「ザ・レイプ・オブ・南京」はベストセラーとなり、米国民への「旧日本軍の残虐さ」を刷り込むことに成功。多くの聴衆が足を運んだチャンの講演には、ディンらが本を販売するブースを出すなど、チャンと抗日連合会は一体となって動いた。
民間の立場から中国の反日謀略を研究している評論家の江崎道朗は指摘する。
「無名のジャーナリストであったチャンを『人民日報』の記者が支援。南京大虐殺記念館も協力した。共産党中央宣伝部の許可なく、このようなことはできない。米国でベストセラーになった背景にはこうした情報戦術があった」
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抗日連合会が日本の戦争責任追及という目的達成のため全面的に支援した議員がいる。2007年の米下院での慰安婦決議を提案した同州選出の日系3世マイク・ホンダだ。慰安婦を「性的奴隷」と断じた決議が可決された後の記者会見で、ホンダはこう切り出した。
「まず抗日連合会に感謝したい」
抗日連合会のメンバーが決議採択に向け、決議の共同提案者集めなど裏方として奔走したからだった。
もっとも、ディンにとってはホンダも駒の一つにすぎないようだ。ホンダがソノマ州立大での式典を欠席したことについて「マイクに『10%の票を失った』と言ってやったよ」と話す。すでにホンダのライバルとも連携を始めている。
2月15日付の地元紙サンノゼ・マーキュリー・ニュースに、尖閣諸島(沖縄県石垣市)問題で、「中国の領有権に配慮を示すべきだ」とする寄稿が掲載された。ディンとともに寄稿者に名前を連ねたのがロー・カンナ。インド系のカンナは元商務省次官補代理で、来年の下院選でホンダの再選を脅かす候補として注目を集めている。
ディンらの反日運動は中国政府の意向を反映するかのように、尖閣問題にも広がりつつある。
在米反日組織の背景は
source : 2013.10.06 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
米国での慰安婦問題で日本非難を繰り返す中国系在米反日組織の「世界抗日戦争史実維護連合会」(抗日連合会)は、どのような組織で、背後には何があるのだろうか-。(岡部伸)
「表向き歴史問題に取り組む在米中国人の市民団体ですが、実際は中国共産党と密接な関係があります」
民間の立場から中国の反日謀略を研究している評論家の江崎道朗氏は言い切った。
「彼らは何度も訪中し、中国でも頻繁に合同国際会議を開催しています。2002年に上海で開催された『第二次大戦の補償問題に関する国際法会議』に参加し、2003年9月、中国政府の官営シンクタンク『中国社会科学院』主導で結成された、日本の戦争責任を追及する国際ネットワーク『日本の過去の精算を求める国際連帯協議会』にも米国を代表して加盟しているからです」
では、中国共産党の宣伝部門が彼ら在米中国人組織を使って反日謀略宣伝工作を仕掛けたのだろうか。
「最初はベトナム反戦運動を行っていた米国のニュー・レフト(新左翼)がアメリカの対日世論を反日化して日米安保体制を弱体化させ、日米同盟を解体させようと日本の戦争犯罪問題を持ち出しました。そこに1980年代に改革開放政策があって大陸系中国人が大量に米国に移住、在米中国人組織が生まれ、1991年ごろから日本の戦争責任追及を始めました」
在米中国人のルーツは大陸にあり、親類縁者の繋がりもあって共産党政権と無縁ではなかった。1989年の天安門事件で、外資導入が困難になったことを受けて中国共産党は在外中国人の大陸への投資を優遇する制度を作ったため、在米中国人と北京との関係が強まり、ニュー・レフトと中国共産党の結びつきが生まれたという。背景には1991年のソ連崩壊が大きいのだろうか。
「冷戦終結で、強大な“敵”だったソ連が消滅して中国の新たな敵として日本が浮上、歴史問題で日本たたきを始めました。米国でも冷戦時代の最大の脅威・ソ連が解体され、第二次大戦史に関する歴史学会で主導権を握ったニュー・レフトの学者たちが、抗日連合会と手を組み、1994年のスミソニアン博物館の原爆展示問題を契機に在郷軍人会とも連携して日本の戦争責任追及を過熱させました」
抗日連合会は「南京虐殺」でも日本たたきを行っており、1997年に「ザ・レイプ・オブ南京」を出版した中国系アメリカ人のアイリス・チャン氏も同会のメンバーで、日本の戦争犯罪追及の機運を世論喚起しようとの在米中国人組織の戦略に沿って活動していたという。
「明確に中国の工作機関(共産党中央宣伝部)が介入してきたのはこの頃です。無名のジャーナリストであったチャンを『人民日報』の記者が支援。南京大虐殺記念館も協力しました。中央宣伝部の許可なく、このようなことはできません。米国でベストセラーになった背景には、こうした情報戦術があった」
2007年に米下院で慰安婦決議をさせた抗日連合会の政界工作は、ニュー・レフトを通じて共和党系も民主党系も取り込み、党派対立に持ち込まず、「反日」行為と感じさせない巧妙なやり方だという。
「マイク・ホンダら議員は自分たちが日本に戦争責任を認めさせることが日本の民主化、アジアの平和のためになると思っています。一種のマインド・コントロール。中国共産党の高度な心理工作といえます」
こうした宣伝謀略工作を仕掛けている中国の組織とはどこになるのだろうか。
「表に出て来るのは中国政府が1985年に作った南京大虐殺記念館や1999年に上海師範大学に新設された中国慰安婦問題研究センターですが、中心になって動いているのは中国社会科学院で、その背後で中国共産党中央宣伝部がコントロールしているようです」
韓国系動き慰安婦の“聖地”になった米グレンデール市
source : 2013.10.07 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
米カリフォルニア州グレンデール市で慰安婦像が設置されてから1カ月が過ぎた9月初め、慰安婦をモチーフにした消印が出回った。「謝罪を拒否する日本の姿勢を批判する」という意味で、少女像を半分だけ描いた絵柄になっていた。
地元の韓国系住民らの要請を受け、市中央郵便局は1カ月間の期間限定で消印を使用することを独断で決めたのだ。記者は連日、中央郵便局に足を運んだが、対応にあたった職員に「担当者がいない」と言われ、消印の存在を確認できなかった。
日本政府からの通報を受け、米郵便庁が回収を指示したためだ。韓国系向けの現地紙によると、慰安婦問題を支援する団体は「日本政府の妨害だ」と反発、消印を市議会に展示しようとしている。
これまで米国内では慰安婦碑が東海岸で設置されていたが、ソウルの日本大使館前と同じ慰安婦像が建てられたのはグレンデール市が初めて。韓国系の活動も活発で、同市は米国における慰安婦問題の“聖地”になりつつある。
「グレンデール市の名前がこんな形で日本で知られることになるとは」
市長、デーブ・ウィーバーはインタビューの中でこうため息をついた。「日韓の問題になぜグレンデールが首を突っ込まなくてはいけないのか」と思ったウィーバーは当初から慰安婦像の設置には反対だった。
しかし、市議会のメンバー5人の中から1年交代で選ばれる市長に強い権限は与えられていない。慰安婦像設置はウィーバー以外の4人が賛成し、7月9日に正式に承認。3週間後に建立の式典が行われた。
慰安婦像が設置された背景として、「姉妹都市」「友好都市」の枠組みがある。同市は2009年に韓国慶尚南道の固城郡、10年にはソウル近郊の金浦市と姉妹都市関係を結んだ。08年から市計画委員になった韓国系のチャン・リーが旗振り役となった。グレンデールの人口約19万人のうち韓国系は5・4%だが、リーはその後も姉妹都市を増やそうとした。韓国だけが突出することに市側が難色を示したため、リーは非公式な枠組みである「友好都市」を活用した。
「友好都市はほぼ私の推薦で決まった。2年間で5都市を加えた」
リーはこう胸を張る。そのリーも慰安婦問題に最初から熱心だったわけではない。07年の米下院での慰安婦決議に取り組んだ同じ韓国系の友人からの働きかけがきっかけだった。
慰安婦像 韓国系の動き歓迎する在米中国人
source : 2013.10.07 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
米カリフォルニア州グレンデール市の計画委員を務めるチャン・リーは「コリアタウンの名誉市長」と自称するほど、ロサンゼルス一帯の韓国系社会に顔が利く。リーにある日、友人が「『慰安婦の日』を制定してみないか」と持ちかけてきた。2012年のことだった。
友人は「カリフォルニア州韓国系米国人フォーラム(KAFC)」会長のジョアチム・ユン。KAFCは07年、米下院での慰安婦決議実現を目指して発足した団体だ。
「慰安婦の日」はこの決議が採択された7月30日とすることが決まった。続いてユンは慰安婦像の設置を持ちかけてきた。KAFC広報担当フィリス・キムによると、10年にニュージャージー州パリセイズパークに慰安婦碑が建って以降、カリフォルニア州の全市に慰安婦像設置を呼びかける活動を開始した。
KAFCのメンバーは約500人でその大半が韓国系。韓国生まれで米国で育った「1・5世代」が中心で、韓国語と英語の両方を話す人も少なくない。リーに対しての働きかけにみられるように韓国系の人脈を最大限に活用している。
活動費は「支持者の寄付」といい、グレンデール市の慰安婦像設置にかかった制作費や輸送料など約3万ドル(約295万円)も寄付という。ある韓国系米国人は活動に関わる理由をこうもらす。
「下院決議を機に韓国系としてのアイデンティティーが呼び起こされた」
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慰安婦問題ではもう1つ強力な推進勢力がある。韓国系キリスト教会だ。
教会の存在について、KAFCのキムは指摘する。
「教会はとても大事な存在。下院決議でも、グレンデール市の慰安婦像設置でも強く支持してくれた」
地元関係者によると、教会はグレンデール市議会が慰安婦像設置に関する公聴会を開いた際、信者を動員したという。
ロスにある福音派の教会の韓国人牧師は匿名を条件に話し始めた。
「日本に恨みはない。祖母の体験をお話しする」
牧師は日本統治下で独立運動の活動家だった祖母が日本人から棒を突っ込まれて片目を失ったこと、キリストを信じることができなければ日本人への恨みをいまでも持っていたことなどを淡々と語った。だが、日本の戦争責任を語るにつれ激高し目をうるませた。
「牧師たちの発言は信者に百パーセント近い影響を持つ。キリスト教会は社会に大きな影響を及ぼすことができるから、そこを使って日本に対して強く謝罪を要求している」
牧師は一部の教会で「日本が原爆を投下されたのは、裁きを受けなくてはならないという神の判断だった」といった説教がされることもあると認める。
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カリフォルニア州ではブエナパーク市、韓国系が市長を務めるアーバイン市で慰安婦像の設置が浮上している。サンフランシスコ市議会やミルピタス市議会では、大阪市長、橋下徹の慰安婦発言を受け、米政府に慰安婦問題の事実調査を求め、事実であれば日本政府への謝罪・補償を要求する決議を行った。
このほか韓国系の人口が多いニューヨーク州などでも、韓国系団体がそれぞれ慰安婦像設置に向けて積極的に動いている。
韓国政府は当初、米国内の韓国大使館や領事館に慰安婦像設置などの動きに関与しないよう指示していたという。しかし、在米韓国人からの突き上げが激しくなったことに加え、大統領、朴槿恵自身が慰安婦問題を重要視する発言を繰り返していることもあり、対応に変化がみられる。駐サンフランシスコ韓国総領事は8月6日に慰安婦決議を採択したミルピタス市議会から決議文を受け取った。
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韓国系の動きを歓迎しているのが在米中国人らによる「世界抗日戦争史実維護連合会(抗日連合会)」だ。抗日連合会はホームページで米東海岸に設置された慰安婦碑について紹介し「米国での記念碑設置計画を支持する」としている。
KAFC側はグレンデール市の慰安婦像設置について「抗日連合会は一切関わっていない」と説明するが、サンフランシスコ市議会では抗日連合会副会長、イグナシアス・ディンが文案を作成するなど、両者は間接的に連携しているといえる。
日本側も手をこまねいているわけではない。グレンデール市で慰安婦の消印が出回ると通報したように、遅まきながら対応しつつある。ある外務省幹部はこう言い切る。
「これまで慰安婦問題での日本の立場を十分に伝えてこなかった反省はある。これからは反転攻勢をかける」
だが、日本国内では真逆の動きもおきている。
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ソウルの慰安婦像 2011年12月、ソウルの日本大使館の向かいに、慰安婦の女性らを支援する団体「韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)」が違法に設置した被害者女性を象徴したブロンズ像。1992年1月に始まった日本政府への抗議集会「水曜デモ」が千回目を迎えるにあたって設置された。
島根県議会で可決された慰安婦決議
source : 2013.10.08 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■自民までも賛成 危機感なし
■身内の対応憤り
「特定の社だけの取材は受けられない。これから本会議だから…」
島根県議会が開会した9月12日。議長の五百川純寿(いおがわ・すみひさ)(64)=自民=は言葉を濁して議長室へ消えた。
同県議会では6月26日に「日本軍『慰安婦』問題への誠実な対応を求める意見書」を賛成多数で可決した。竹島(同県隠岐の島町)問題を抱え、国際問題には敏感であるはずの島根県で、なぜ自民までも賛成に回ったのか。記者の問いに五百川は答えようとしなかった。
根拠もなく旧日本軍による慰安婦募集の強制性を認めた河野洋平官房長官(当時)談話を基にした意見書は超党派によって提案され、民主、共産などに加え、自民も1人を除き賛成し可決された。
《日本政府は1993(平成5)年『河野談話』によって『慰安婦』への旧日本軍の関与を認めて、歴史研究、歴史教育によってこの事実を次世代に引き継ぐと表明しました。(中略)日本政府がこの問題に誠実に対応することが、国際社会に対するわが国の責任であり、誠意ある対応となるものと信じます》
採決の際に退席した自民党県議、小沢秀多(ひでかず)(63)は、「われわれ自民党はいわれのない批判に対し敢然と立ち向かい、日本人は強制連行をやっていないと言わなければならないのに、危機感がなさすぎる」と、身内の対応に憤りを隠せない。
当初、小沢は本会議で反対討論をしようとしたが、自民会派の幹部から止められた。
「異議を唱えるなら、ペナルティーを科さねばならない」
小沢は幹部の冷たい言葉を次期県議選で公認しないという脅しと受け取った。心配した支援者らから説得を受け、小沢は反対討論を断念した。議場退席はせめてもの抵抗だった。
■議長選バーター説
議会関係者の間では「意見書」議案に自民党が賛成した理由について「議長選とのバーターだったのでは」といった噂がまことしやかにささやかれる。6月議会で五百川が議長に選出された際、民主会派は賛成票を投じた。自民と歩調を合わせたのは異例の対応だった。
民主会派の会長、和田章一郎(66)は「そんなひきょうな話はない」と「バーター説」を一蹴したが、ただ一人反対した無所属の成相安信(なりあい・やすのぶ)(61)は「民主との水面下の根回しが優先されたに違いない」といぶかる。
成相は議案の本会議提出を決めた総務委員会でこう訴えていた。
「『河野談話』を追認すれば間違った歴史認識が独り歩きすることに島根県議会が手を貸すことになる」
懸念する事態はすでに起こっている。
慰安婦像を設置した米カリフォルニア州グレンデール市議会で7月9日、設置推進派の市議はこう発言した。
「日本でも多くの市議会が慰安婦問題で決議している。私たちは正しいことをしているのだ」
民主党時代に続出した「慰安婦意見書」可決
source : 2013.10.08 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
全国の地方議会で、慰安婦問題をめぐり、公的謝罪や国家賠償などにつながる「誠実な対応」を政府に求める意見書や決議の可決が相次いでいる。
意見書などの可決は平成20年3月の兵庫県宝塚市議会をはじめ、今年6月末現在で44議会に上る。21年9月の民主党政権誕生以降、市民団体による働きかけが活発化し、民主や共産だけでなく公明会派も賛成するケースが目立つ。
政権交代後の今年に入ってからでも島根県議会を含め4議会が可決した。各地の意見書は根拠がない慰安婦の強制連行を前提としており、似通った文面が多いのも特徴だ。
「県議会は信じられないことをやらかしたな」
島根県議会の決議を受けて急(きゅう)遽(きょ)発足した「島根県議会の歴史認識をただす、実行委員会島根県民の会」の代表世話人、石原倫(とも)理(ただ)(56)は、県外の知人からこうあきれられるという。
意見書の撤回を求める石原の懸念は深い。
「韓国に間違ったメッセージを出してしまい、もはや黙っていられない。このままでは他の自治体に広がりかねない。この問題を大きくしているのは日本人自身だ。本当に情けない」
意図しないところで地方自治体が「反日」に利用されたケースもある。慰安婦像がある米カリフォルニア州グレンデール市のホームページ(HP)に、姉妹都市の東大阪市が設置に賛同したかのような記述が掲載された問題だ。
「姉妹都市交流もほとんど途絶えているのになぜうちの名前が出されるのか。まったく理解できない」
東大阪市文化国際課長の米田利加(48)は、怒り混じりに首をかしげた。
HPでは東大阪市を含めた6姉妹都市が碑や記念物の設置に興味を寄せていると表明した、としたうえで、維持のための基金は姉妹都市が賄う-などとありもしない内容が記述されていた。
7月9日に記載を見つけた東大阪市は同月25日、「事実とまったく異なる記載」だとして修正を求める文書を野田義和市長名でグレンデール市に送った。
像設置について東大阪市には何ら事前相談はなく、基金についても了承した経緯は一切ない。そもそも東大阪市は像設置の動きを注意深く追いかけ、外務省に「有効な対抗処置」を求める意見書を送るなど、国内でも関係先に注意を促してきた。
「なぜ抗議しないのか」「何もしないのか」。東大阪市には積極的な対応を求めるメールや電話が相次いだが、本紙が8月2日、「東大阪市がグレンデール市に抗議文」と報じて、流れが大きく変わった。
「よく頑張っている」。ほとんどが東大阪市の対応を激励するものになった。6月24日から9月9日までに寄せられた意見は622件。像設置に賛意を示す意見はないといい、米田は「東大阪市の毅(き)然(ぜん)とした対応が支持されている」と話す。
問題は、グレンデール市に抗議文を送ってから2カ月が経過したものの、未だに返答や具体的な動きはなく、なしのつぶての状態であることだ。いらだちを募らせた市は9月25日、修正を要求する抗議文を再度送った。米田は「姉妹都市提携の解消も選択肢の一つとして慎重に考えている」と、“次のステップ”を見据える。
慰安婦問題におけるウソを指摘し続けてきた東京基督教大学教授の西岡力(57)は警告する。
「悪意を持って日本の名誉を傷つけようとする政治勢力が国内外にある中で、地方議会や自治体は、反日勢力に利用される危険性が高いことをよく考えなければならない」
中国のハリウッド 反日感情の「製造現場」
source : 2013.10.10 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
「日本兵の役にはセリフがなく、すぐに殺されるから監督になかなか覚えてもらえない。できることならやりたくない」
9月末のある夕方、中国東部の浙江省東陽市横店にある映画・ドラマ撮影所の「横店影視城」の一角。約100人のエキストラのたまり場で、仕事のチャンスを待つ安徽省出身の楊建業(21)はカップラーメンをすすりながらぼやいた。
映画スターを夢見て横店に来て約1年。楊は殺される日本兵の役を50回以上演じてきた。「銃で撃たれるのが一番楽だが、爆発で死ぬ場合は飛ばされるのでけがしやすい。撲殺シーンを好む監督が多いから困る。殴られるのは本当に痛い」と言って笑った。
横店のエキストラ役の日当は約80元(約1280円)が相場だが、日本兵役だと100元(約1600円)前後になるという。
「中国のハリウッド」と称する横店影視城は、1990年代に映画『阿片戦争』のロケ地に選ばれたことをきっかけに発足した。日中戦争当時の広州や香港など各都市の昔の町並みを再現した建物群が並ぶ。
毎年100作品以上の映画、テレビドラマが撮影され、その半分は日中戦争がテーマ。
内容はどれも似ている。残虐な日本兵が中国人女性や子供を虐殺した後、勇敢な共産党軍が現れ、日本軍をやっつける-というシンプルな構成だ。
完成したドラマは各地のテレビ局に売られ、終日繰り返し放送される。
2012年9月に全国で発生した反日デモの際、若者たちは日の丸を踏みつけ、日本車を壊したが、彼らが「日本嫌い」になった最大の理由は「テレビドラマの影響」と、中国紙、南方都市報などが報じている。
横店は中国人の反日感情の“製造現場”といえる。
戦争ドラマ「日本だけ敵役」 日本兵の人間性表現はタブー
source : 2013.10.10 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
昨年、中国全土のテレビ局の夜のゴールデンタイムに放送された連続ドラマ200本余りのうち、撮影所「横店影視城」(浙江省東陽市横店)でつくられた日本軍との戦争などを描いた抗日ドラマは48本だった。中国で一本のテレビドラマは20話から50話で構成されるのが一般的。抗日ドラマは合計すると軽く1千時間を超えることになる。
中国で抗日ドラマが量産されるようになったのは最近のことである。中国紙、南方週末の統計によると、1949年から2004年までに制作された抗日ドラマは約150本。毎年平均3本のペースだったが、05年に20本を超え、それから年々増加した。
■検閲通りやすく安全
急増する背景には、共産党政権が近年、愛国主義教育を強化したことに加え、共産党宣伝部の厳しい検閲制度のなかで審査を通りやすいという事情がある。
現在の中国人の生活をテーマとすれば、就職難や不動産価額高騰などのさまざまな問題を取り上げざるをえない。正面から社会問題に取り組もうとすれば当局の機嫌を損ねて発禁処分となり、投資を回収できないというリスクが高くなる。このためドラマ制作業者は「安全」な抗日ドラマを選ぶ傾向が強くなる。
また、北京で抗日ドラマの脚本作りに携わるシナリオライターは、「戦争ドラマの敵役は日本しかいなくなった」と指摘する。
数年前までは、共産党軍と国民党軍との内戦や、朝鮮戦争での米軍との戦いもテレビドラマでよく取り上げられる題材だったという。ところが最近、中国と台湾の馬英九国民党政権との関係が改善したことに加え、米国との関係も重視するようになったため、国民党軍や米軍が登場するドラマは審査を通りにくくなったというわけだ。
■人間性表現はタブー
抗日ドラマと映画の内容はずさんなものが多い。事実と異なり全く整合性がとれないだけではなく、視聴率をあげるため暴力シーンもよく出てくる。12年にドラマ部門で視聴率全国1位となった『抗日奇侠』は日中戦争を背景に、中国のカンフーを広めて国を守るという物語だが、中国人武闘家が日本兵を素手で真っ二つに切り裂くシーンもある。
ドラマや映画の内容が行き過ぎとの指摘もあり、これまで当局が規制に乗り出したこともある。しかし、大きな変化はみられない。共産党政権自身が「日本の右傾化」(党機関紙)を批判するキャンペーンを展開しているためだ。
日本兵の人間性を表現することはタブー視されている。著名な映画監督、姜文が00年につくった『鬼が来た!』(中国名、鬼子来了)では、捕虜となった日本兵と中国人の農民との奇妙な友情と戦争の悲劇を描き、カンヌ国際映画祭では審査員特別グランプリを受賞した。
にもかかわらず、日本兵に同情的な視点と中国人の愛国心を表現しなかったことが問題視され、中国国内では上映禁止となった。
以降、中国の映画やドラマに登場する日本兵は、残虐で無能、ひきょう者という単純なイメージが定着した。
横店のエキストラ役者たちの間では、「かっこいいやつは八路軍(共産党軍)、人相の悪いのは日本兵」という暗黙の了解があるという。
テレビドラマだけではなく、中国の小中学校の教科書でも日本軍の「残虐行為」が強調されている。共産党政権は歴史を通じて日本への憎しみを喚起することによって、官僚の腐敗や、環境汚染など国内問題に対する国民の不満をそらす狙いがあるといわれる。
こうした世論操作によって作られる強い反日感情だが、中国当局にとってもろ刃の剣にもなっている。日本の首相の靖国神社参拝などの日中間の問題が起きると、世論は日本批判一色になるが、たちまち中国政府の「弱腰外交」への批判に変わり、官製の反日デモも反政府デモに変わることがあるためだ。
日本との関係はもはや外交分野にとどまらず、中国国内の安定を左右する大きな問題になりつつある。
ある中国外交筋はこうもらす。
「テレビドラマで簡単にやっつけられる弱い日本軍ばかり見せられてきた中国の民衆は、釣魚島(尖閣諸島=沖縄県石垣市=の中国名)を簡単に奪還できると思っている。彼らの声はいま私たちに大きな圧力となっている」
苦戦する中国進出企業 厳しい規制、撤退も困難
source : 2013.10.11 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
台風18号が日本列島を直撃した9月15日。日曜日の早朝にもかかわらず、電話をかけてきた関西系の中小企業のある社長は、少し追い詰められたような声で記者に突然こう告げてきた。
「2日前の話、悪いけど全部聞かなかったことにしてほしい。どんなにぼかしても、中国当局には当社だと分かってしまう」
業種も所在地も一切記事にしないでほしいと述べた上で最後には「ばれたら会社がつぶれる」と言った。
中国経済の先行きに不透明感が漂う中、中国からの事業撤退や戦略の見直しをテーマにしたセミナーの開催が昨年来、全国各地で相次いでいる。昨年11月には東京、今年1月には大阪で行われ、参加者はそれぞれ100人、80人とほぼ満席。冒頭の社長はこれらのセミナーに参加した経営者の一人だった。
「なぜ、中国から撤退したいのか」
10社以上に取材を依頼し、複数の経営者が応じたが結果的には全社が「やっぱり出さないでほしい」と記事化の拒否を申し出てきた。理由をたずねると、各社長とも異口同音に「絶対に中国側にばれる」と説明した。
中国人従業員への退職金支払い、追徴課税などが障壁となり、大企業ですら中国から撤退するのは難しいといわれる。経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中小企業にとってはなおさらだ。
「中国政府当局は欧米企業への対応に比べ、日本企業には格段に厳しい。欧米には“逃げ得”を許しても、日本企業だけには『一円たりとも得させない』というような空気がある」
中国事情に詳しい税理士の近藤充はこう指摘する。
日本企業が中国から撤退する理由は、同国経済の減速、現地調達した部品の不良の多さ、人件費の高騰などがある。だが、ある社長は単純な経済事情だけでないと言い切る。
「背景として歴史認識の違いを起点とする反日思想があるのは間違いない」
ヤマダ電機撤退 「社名が日本兵を連想」消費者が拒否反応
source : 2013.10.11 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
2010年に中国進出した大手家電量販店のヤマダ電機は、今年5月に南京店を閉じたあと、6月に天津店も閉じ、中国国内では瀋陽店の1店舗を残すだけとなった。業績が思うように伸びず、13年までに中国で5店舗を開く計画を諦めざるを得なかった。
南京店などを閉じた理由について、同社は記者会見で、12年秋に尖閣諸島(沖縄県石垣市)国有化を受け中国全土で広がった反日デモに伴う日本製品の不買運動に加え、物流システムをうまく構築できなかったと説明した。
ただ、中国の経済誌記者は別の理由を指摘する。
「ヤマダ電機という社名が、抗日ドラマに出てくる山田という日本兵の名前を連想させるため、消費者が拒否反応を示したことも原因の一つだ」
1989年に中国共産党総書記となった江沢民が小中学校で愛国主義の宣伝との名目で反日教育を推進した。
旧日本軍の数々の“蛮行”が頭の中に徹底的にたたき込まれた世代が主な消費者となったいま、中国マーケットにおける日本製品離れが加速し、日本企業の業績に影響を与えるようになった。
中国に進出している日本企業にとって、店の名前やブランド名から日本のイメージをいかに隠すかは、大きな課題になりつつある。ヤマダ電機は中国での店名を「山田」ではなく中国語の当て字で「亜瑪達」としたが、中国メディアに取り上げられる際に本社名がたびたび登場したことで、「日本色」を払拭できなかった。
■トップの名前も
ヤマダ電機と同じように、中国で苦戦しているのが12年12月に上海で中国1号店を開いた高島屋だ。開業当時の初年度の売り上げ目標を130億円と設定したが、今年4月に80億円と下方修正し、9月に「50億~60億円の見通しを立てている」(鈴木弘治社長)と再び下方修正を発表した。
売り上げ低迷の原因は複数あるが、「名前が日本のイメージが強すぎることも一つの理由だ」(現地のメディア関係者)という。
また、日本企業経営者の歴史認識が中国のインターネットで問題視され、不買運動につながることはしばしばある。
05年ごろ、中国当局が「歴史を歪曲(わいきょく)した」と批判した「新しい歴史教科書をつくる会」の賛同者リストのトップに三菱重工の元社長、相川賢太郎が名を連ねたことを中国メディアが伝えたことをきっかけに、インターネット上で三菱系製品の不買を呼びかける動きが広がった。
相川の名前がトップに記載されたのは、五十音順でたまたま一番になったからだけだった。8年たったいまでも、三菱重工は中国の反日団体関係者の間で「反中企業」の烙印(らくいん)が押されている。
一方、業績が大きく伸びているのはユニクロだ。02年に中国に進出し、13年5月までに全国各主要都市で計202店舗を展開し、中国で一大ネットワークを形成した。ユニクロは中国では発音が近い「優衣庫」という店名を使っている。「優れた衣服の倉庫」という意味の中国語であるため、多くの中国の消費者は国内企業と思い込んでいるという。それが同社成功の要因の一つと指摘する声もある。
■赤字でも追加納税
ユニクロの成功とは対照的に撤退を決めた企業もある。中国に進出以来、数年間にわたって赤字が続いていたある飲食店経営者は店をたたむことを決めた。ただ、会社清算の手続きは難航した。
この経営者は「追加で支払う税金なんて発生しない」と考えていたが、中国の税務当局は「ずっと赤字という状態でこれまで経営が続けてこられたはずがない。何らかの手口で利益を隠しているはずだ」と主張。会社清算の手続きは、債務を解消の上で支払うべき税金を納めてからだと指摘された。
清算が認められたのは2年後。債務超過のための増資、追加納税などを当局は執拗(しつよう)に求めてきた。
この経営者はため息をつく。
「想定していた3倍のお金がかかった。結局はお金をいくら積むかだった」
戦時徴用賠償 世論工作し「日本発」の動きを促す、韓国
source : 2013.10.12 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
9月下旬、ソウルで朝鮮半島の日本統治時代に動員された戦時徴用訴訟の経緯と見通しをテーマに、原告団の代理人を務める弁護士を招き講演会が開かれた。
「このような訴訟で原告が勝てなければ、韓国が独立した意味がない」
講師として招かれた原告代理人の弁護士、崔鳳泰(チェ・ボンテ)はこう言い切った。原告側が裁判の行方に自信を持つには理由がある。
■差し押さえは慎重
昨年5月に韓国・最高裁が新日鉄住金(旧日本製鉄)と三菱重工業の元徴用労働者の個人請求権は消滅していないとする判断を初めて示し、ソウル、釜山の両高裁に差し戻して以降、同様の訴訟が4件出された。今年7月に相次いで企業側に賠償を命じる高裁判決が出されるなど原告勝訴の流れが定着しつつあるのだ。
7月10日のソウル高裁判決では新日鉄住金に元徴用労働者4人への損害賠償支払いを命じた。賠償額は原告1人当たり請求満額の1億ウォン(920万円)。新日鉄住金が韓国に保有する資産の差し押さえの仮執行まで認めた。ただ、崔は日本企業の在韓資産への差し押さえを実行するか問われると、「原告の考え方次第だが、それはしないほうがいい」と述べ、企業側が賠償金を自主的に支払うことを促していく考えを示した。裁判には自信を示す原告団が差し押さえに慎重なのはなぜか。
「(韓国内で)国民的な共感を得るには至っていないからだ」
元徴用労働者の支援者は焦りをあらわにし、別の支援者は韓国政府にぶつける。
「慰安婦問題では韓国外務省や同胞団体が対日包囲網を形成している。だが韓国政府は元徴用労働者についてはまったくといっていいほど動こうとしない」
韓国政府は2005年8月、元徴用労働者問題などの日韓請求権に関する官民合同委員会を開設。「慰安婦」などの賠償請求権は、1965年の日韓請求権協定に含まれないとする一方で、日本側が拠出した3億ドルの無償経済協力には「個人財産権、強制動員の被害補償問題の解決金などが含まれている」とする見解をまとめた。今後もこの立場を変えるのは難しいとみられている。韓国政府筋は「司法判断が韓国政府の従来の立場を超えており困惑がある」ともらす。
そこで原告団は世論を喚起しようとしている。“標的”となっているのが日本の法曹界やメディアだ。日本国内から、「日本は賠償すべきだとのムードを作り出すのがねらい」(原告団関係者)という。
特に韓国の原告側弁護団が重視しているのが日本弁護士連合会(日弁連)との協力関係。日弁連は近年、「戦争および植民地支配における人権侵害の救済のための共同行動」に力を注いでいる。
■メディアとも懇談
日弁連は8月30日、ソウルの国会議員会館内で韓国側と合同のセミナーを開いた。日弁連会長、山岸憲司が祝辞を寄せ、参加した弁護士が慰安婦や戦時徴用問題の現状、課題を分析した調査報告を報告した。
2010年にはソウルと東京で、日本の日弁連に相当する大韓弁護士協会とシンポジウムを開催。日韓両国弁護士会の「共同宣言」を出したほか、「日本軍『慰安婦』問題の最終的解決に関する宣言」を共同で公表した。
原告団関係者は語る。
「日弁連との共闘態勢を整えたことで、日本の市民団体など日本国内の“良心的”勢力にアプローチする足がかりを得た」
また、大韓弁護士協会は7月のソウル高裁の判決から6日後、ソウルに駐在する日本メディアを集め懇談会を開いた。協会では「日帝被害者問題の解決方法をともに模索するとともに、積極的な記事掲載を要請する会合」と位置づけている。協会は活動報告のなかで「(日本の)言論15社から21人の記者が参加し、翌日の社説などに懇談会に関する記事が掲載された」と意義を強調した。原告側は日韓での世論作りを進め、日韓両政府に圧力をかけたいとしている。戦時徴用訴訟は、日本の国際的な品位をおとしめて韓国の地位を高める“ジャパンディスカウント”に利用されている慰安婦問題とは様相が異なるが、「日本発」で事態を拡大しようという点では同じといえる。
「いずれ韓国政府が慎重姿勢を一変させ、日本政府に賠償支払いを促すよう求めてくるのではないか」
日本の外交筋が危惧する今後の展開だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【用語解説】新日鉄住金(旧日本製鉄)の戦時徴用訴訟
戦時中の昭和16~18年ごろに徴用され、朝鮮半島から日本に渡った80~90代の元労働者の韓国人男性4人が、旧日本製鉄の大阪製鉄所などで当初の説明とは異なる過酷な勤務を強いられたなどとして、損害賠償や未払い賃金の支払いを求めた訴訟。今年3月には、別の元徴用工の男性8人が新たに同社への賠償を求める訴えをソウル中央地裁に起こしている。
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