source : 2012.09.25 三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」
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8月16日、尖閣諸島魚釣島に、香港の保釣行動委員会らの活動家14名を乗せた抗議船「啓豊2号」が接近。七名が上陸した。香港の活動家とは言っているものの、中国共産党の意を受けて動いているのは言うまでもない。上陸した七名は魚釣島で待ち構えていた警察官、海上保安官に逮捕された。さらに、船に残っていた活動家も逮捕されたわけだが、例により弱腰の民主党政権は彼らを起訴せず、翌17日には早々と送還してしまう。
さらに日本政府の尖閣諸島国有化を受け、中国は共産党政府が人民を煽り、官製の反日デモにより我が国に圧力をかけようとした。結果的に、反日デモのはずが「反日暴動」に発展してしまい、多数の日系資本の店舗が壊され、略奪を受け、北京の日本大使館にまで暴徒が乗り込む騒ぎになった。中国人民のあまりの民度の低さに世界中が愕然となり、共産党政府は大慌てでデモの規制に乗り出した。結果、反日デモはピタリと収まった(元々が官製デモである以上、当然だが)わけだが、現在も日系企業の中国人従業員が職場放棄や賃上げを要求する動きが相次いでいる。反日デモに呼応した「便乗要求」というわけだが、中国でビジネスをする日系企業は、この手の騒ぎが同地において「日常茶飯事」であることをいい加減に理解しなければならない。
日経新聞などの無責任な煽りを受け、安易に中国進出をした日本企業の中には、同地からの資本引き上げを考え始めるところが増えてくるだろう。何しろ、中国は度重なる人件費アップにより、もはや「安価な人件費の国」ではないのだ。挙句の果てに、反日暴動で店舗や工場が焼き討ちを食らうわけだから、一体何のために中国でビジネスを展開しているのか、疑問に思う企業が増えてきて当然だ。
注意しなければならないのは、中国はすでに外資の大々的な逃避を予見し、それを防止するために複数の法律を施行しているという点だ。筆者が最も懸念しているのは、やはり中国民事訴訟法第231条である。本法律は、中国において「民事上の問題(要はカネの問題)」を抱えている外国人に対し、法的に出国を差し止めることができるという凄まじい内容なのである。刑事事件の容疑者ならともかく、民事訴訟を抱えている外国人を出国させないなど、明らかに国際法違反だ。
本231条の文面は以下の通りである。
中国民事訴訟法231条
被執行人は法律文書に定めた義務を履行しない場合、人民法院は出国制限をし、或いは関係部門に通達をして出国制限を協力要請をすることができる。
-司法解釈規定
出国制限される者の具体的範囲としては、被執行人が法人或いはその他の組織であった場合、法定代表人、主要な責任者のみならず、財務担当者等債務の履行に直接責任を負う者も含む。
読めば一目瞭然だが、本231条は極めて「拡大解釈」がしやすい条文になっている。何しろ「法律文書に定めた義務を履行しない」が条件で、「主要な責任者」を出国停止にできてしまうわけだ。「法律文書に定めた義務」とは、どの程度の範囲を意味しているのか。主要な責任者とは、果たして何を意味するのか。分かるのは本法律を「恣意的に活用する」中国人民や共産官僚のみである。
民事訴訟法第231条が施行された結果、中国に進出した企業で働く人々が、過去に日本人だけでも百人近くが出国停止になっている。台湾人に至っては、日本人とは桁が違う人々が一時的に中国から出られない状況に至ったのである。
本法律がある限り、何らかの民事上の問題や「言いがかり」的な損害賠償請求を受けている企業の「主要な責任者」は、中国からの出国を差し止められる可能性があるのだ。何しろ、「主要な責任者」であるわけだから、別に代表取締役などでなくても構わない。
ちなみに、同231条で不当に出国を差し止められた場合、損害賠償請求などに唯々諾々と従えば、瞬く間に当局から開放してもらえる。すなわち、日本へ脱出することが可能になる。要するに、一種の国家的誘拐ビジネスのようなものなのだ。
さて、尖閣諸島をめぐり日本との対立を深めつつある中国は、予想通り「経済」と「報道」をツール(道具)に、我が国に脅しをかけ始めた。相手国(この場合は日本)の経済が、
「自国に依存している。自国と争うと、国民が飢える」
というウソの印象を植え付け、外交交渉を有利に展開させようとするのは、中国のような独裁国が得意としている手法だ。
2012年9月17日 サーチナ「日本はもう10年を失うことになる」-中国が経済制裁を示唆
日本政府による尖閣諸島(中国名:釣魚島)の国有化を受けて、人民日報は「中国はいつ日本に対して経済カードを切るのか?」と題する論説を発表した。新華社を始め、中国の主要メディアが転載して報じている。その中で、日本のいわゆる"失われた10年"を引き合いに出して、「日本はまたもう一つの10年を失い、20年後退する準備を進めているというのか」などとしている。
この論説では、「日本経済は中国の経済手段に対して免疫力に欠けている」「日本経済が倒れずに持ちこたえられたのはかなりの程度、対中貿易と対中投資の大幅成長によるもの」などと指摘している。
「中国側も、経済手段が諸刃の剣であることは理解している。グローバル化の時代、特に日中間の双方の経済・貿易関係はすでに、互いになくてはならない状態になっている」とし、「中国は経済制裁の発動を国際紛争解決に用いることには反対するが、領土主権に関わるもので、日本側が挑発を続けるならば、中国側は迎え撃たなければならない」とした。
笑止千万とはこのことだ。
現在の日本経済が低成長に甘んじているのは、別に人民日報に指摘されるまでもなく、確かな事実である。とはいえ、日本の低成長の理由は、単純に政府の政策的失敗でデフレから脱却できないために過ぎないわけだ。
【図173-1 2011年 日本のGDPと対中輸出入・貿易収支(単位:十億ドル】
図の通り、対中貿易黒字(香港含む)の規模など、GDPの0.33%でしかない。すなわち、日中間の貿易が途絶すると、日本のGDPは0.33%減る。「で?」という話なのだ。日本は対中貿易とは無関係に、正しいデフレ対策さえ実施すれば、普通に成長路線に戻れる。日本の「失われた10年」は完全に内政問題であり、政府が正しいデフレ対策を実施しさえすれば、中国がどう動こうが終わる。
などと書くと、すぐさま「貿易ではそれほど依存していないのかも知れないが、日本は中国に巨額の投資をしている。中国共産党が日本資産を凍結すると、日本経済は壊滅する」などと主張してくる人がいるわけだ。残念ながら、日本の対中直接投資の残高は834億ドル(11年末、以下同)で、全体の8.6%を占めるに過ぎない。対GDP比で言えば1.42%だ。そもそも、中国共産党が日本の資産接収などした日には、外資に依存している中国経済は終わる。
ところで「財の輸出÷名目GDP」で計算した輸出依存度(2011年)は、日本が14%であるのに対し、中国は26%だ。輸出依存度が日本のほぼ二倍に達するほど「外需依存」の中国が、我が国に対し「経済カードを切る」「経済制裁を実施する」など、笑うしかない。相対的に「外需依存」が強いのは中国経済であって、日本経済ではない。
さらに書けば、中国の輸出に占める外資の割合はおよそ50%で、しかも「日本から」巨額の資本財を購入することを続けている。日本の資本財なしでは、中国は韓国同様に、生産も輸出も不可能になってしまう。日本に依存しているのは中国の方であり、逆ではないのだ。
新聞やテレビなどに登場する「自称」識者たちは、口を開けば、
「日本の対中輸出は輸出総額の約20%だ。だから、日本経済は中国に依存している」
などと喧しい声で叫んでくるわけだが、そもそも日本の国民経済全体(GDP)に輸出が占める割合は14%でしかないことを、彼らは決して口にしないのだ。知っていて説明しないならば、外国に有利な言論を続ける悪質な確信犯で、知らないというのであれば「無知」ということで、言論活動を継続するには能力、知識不足という話になる。 果たして、どちらが正解なのか、筆者には分からない。
それはともかく、中国に対しては、何しろ尖閣諸島を実効支配しているのは日本なのである。日本は国有化した尖閣諸島に淡々と施設を作っていき、公務員を常駐させる等で「自国領土」を管理していけばいいだけの話だ。それに中国が反発し(100%するだろうが)、「経済制裁を実施する」と言ってきたならば、「どうぞ」と返せばいい。
2010年9月の尖閣諸島沖中国漁船衝突事件の際には、中国は日本への対抗措置としてレアアースの対日輸出を差し止めるという措置に出た(明らかにWTO違反だ)。それに対し、日本はレアアースの輸入先を変更することで対応した。何しろ、レアアースを産出しているのは、別に中国のみではないのだ。さらに様々な技術開発により、現在の日本企業は「レアアースを必要としない」構造を作りつつある。それに対し、日本側が対抗措置として資本財の対中輸出を止めたとき、果たして中国側は対応できるのだろうか。レアガスをはじめ、日本の資本財には代替がきかないものが少なくない。「日本がだめなら、他国から」というわけにはいかないのだ。中国側は果たして、この現実を正しく理解しているのだろうか。
結局のところ、日本にとっての対中問題とは「中国経済への依存」云々ではなく、単なる国内問題なのだ。尖閣問題が深刻化し、中国の反日暴動が激化すると、例により一部のメディアが「日中両国は対話解決に全力を上げよ(毎日新聞」、「日中関係の大局を見渡したとき、両国が衝突することにどれだけの意味あるのか。頭を冷やして考えるべき(朝日新聞)」などと、あたかも日本側にも非があるような記事を乱発している。朝日新聞に至っては、そのものずばり「一連の騒動のきっかけは、中国への挑発的な言動を繰り返す石原慎太郎東京都知事による購入計画だ」と書いているわけだから、呆れるしかない。過去に毎日や朝日に代表される新聞が書き散らした「冷静に、冷静に」「中国も悪いが、日本も悪い」といった論調が、今回の事態を招いたことに対する反省がまるでないわけだ。
対中関係が悪化しているのは、過去の日本の政治家が新聞やテレビなどの論調に引きずられ、安全保障の確立を疎かにしていたためなのだ。そういう意味では確かに「中国も悪いが、日本も悪い」のである。但し、これまで毅然とした対応をしてこなかった過去の日本が悪いという話であり、朝日新聞の主張とは論点が異なる。
それはともかく、安全保障確立の原則は、以下の三つを同時に実行することになる。
(1)自国領土を守る軍事力を持つこと
(2)国民の間に「自国領土は自分たちが守る」というコンセンサスを醸成すること
(3)上記の(1)及び(2)を「相手国」に伝えること
上記(1)から(3)までが達成されていれば、戦争は起きない。逆に、上記のどれかを疎かにしてしまうと、戦争の時期が迫ってくるのである。
日本の場合、上記の(1)は辛うじて実現している。とはいえ、過去の日本は(2)及び(3)を達成しておらず、結果的に我が国は戦争への道を歩んでいるわけだ。
間もなく、日本国民は「総選挙」という政権選択の機会を与えられる。次なる総選挙において、いかなる政権を誕生させるのか。我々の選択次第で、日本国の安全保障が確立されるか、中国との関係を「正常化」することができるか否かが決定することになる。
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