source : 2013.12.05 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
4日発足した日本版NSCは、待ったなしで「意思決定」を迫られる事態に直面している。中国が東シナ海上空に防空圏を設定し、現場は緊迫している。
■衝突の危機意識
先月23日、中国政府が日本と重なる防空圏を設定したことが伝わった直後、航空自衛隊は緊急テレビ会議を開いた。作戦中枢トップの航空総隊司令官と全国3つの航空方面隊司令官、沖縄の南西航空混成団司令がそろい、総隊直轄部隊の司令も加わった。それぞれの硬い表情が事態の重さを表していた。
「西部(福岡)と南西航空混成団は厳正に対領空侵犯措置を実施せよ」「パイロットの負担を考え、北部(青森)と中部(埼玉)は支援準備を」。総隊司令官の指示が矢継ぎ早に飛ぶ。
「緊急発進(スクランブル)で距離はどこまで詰めるべきか」。前線の方面隊司令官からは衝突の危機を意識した発言が相次いだ。
「どの段階で武器使用の許可は出るのか」
会議は沈黙した。
■最前線は尖閣北方
東シナ海上空では昨年12月から、すでに日中の緊張したつばぜり合いが繰り返されている。
《中国海軍の情報収集機Y8が日本の防空圏に接近して進入する。これに対し空自F15戦闘機がスクランブル。今度は中国空軍の戦闘機J10が接近する》
攻防を重ねるうちに透けてきたのが中国軍の能力。J10の飛行範囲の限界だ。
日本の防空圏をみると、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の西側を真っすぐ北上した空域が中国大陸に最も近く、そこからは東側に大きく切れ込んでいる。Y8は防空圏を越えてくるが、J10は大陸に最も近い、尖閣北方空域の防空圏に入るか入らないかの地点まで来ては周回して帰っていく。
防衛省幹部は「そこまでしか地上レーダーが届かないからだ」と言い切る。戦闘機は、相手機を広範に探知するレーダーが届かない空域を丸裸では飛行しない。早期警戒管制機(AWACS)を随伴しない中国戦闘機の飛行範囲はその地点が限界というわけだ。
この分析は中国側発表の「虚勢」「虚偽」の疑いも見透かす。中国は、自衛隊機や米軍機にスクランブルをかけたとしているが、レーダーの能力が低ければ、相手機が相当接近してこない限り探知できず、スクランブルができる可能性は低い。
この1年間で、空自のF15はあらゆる飛行パターンを試し、中国のレーダーの弱点を把握した。最長でも尖閣上空、それも相当高い高度の航空機しか探知できない程度という分析だ。
空自の最西端のレーダーは、尖閣諸島の南東約340キロの宮古島(沖縄県宮古島市)にある。これが尖閣の領空を死守する強みとなっている。ただ、中国に尖閣を奪われてレーダーを設置されるようなことがあれば形勢は逆転する。
■第4のシナリオ
防衛省・自衛隊には、10~20年後に想定される対中有事シナリオがある。(1)尖閣侵攻(2)尖閣と石垣・宮古両島への同時侵攻(3)尖閣・石垣・宮古と台湾同時侵攻-の3つだ。
陸海空3自衛隊は、これらのシナリオに基づき日中双方の戦闘能力を評価してきた。導き出した最重要課題は「情報優越の確保」。海・空域を常時監視し、挑発や侵攻の芽を摘み取ることを指す。このためには、宮古島のレーダーだけに頼るわけにはいかない。低空で接近する機体に対し死角がある。前線で航空機を探知する早期警戒機E2Cや早期警戒管制機の更新、増強が不可欠だという。
中国側も動いている。早期警戒管制機能を持つKJ2000やKJ200を保有。まだ能力は低いが、「今後10年で数と能力を向上させれば逆転される恐れがある」(空自幹部)。
中国の防空圏設定は尖閣上空が中国の「領空」との主張を強め、近づく航空機に対し「防御的措置」として撃墜も辞さない姿勢を示す狙いもあるとみられている。そこで第4のシナリオが浮上する。
《尖閣周辺で中国J10が早期警戒管制機を伴い飛行訓練を常態化し、空自F15がその都度急行。あるとき突如、J10のパイロットは中国の「領空」を侵犯したとしてF15に射撃管制用レーダーを照射する》
領空を侵犯されても空自パイロットに与えられた権限は、相手に対する警告射撃と強制着陸命令しかない。正当防衛と緊急避難に限定された現在の武器使用基準の見直しに時間をかける余裕はない。
保守派と改革派 割れる中国、「一番迷走しているのは対日外交だ」
source : 2013.12.05 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
中国共産党の重要会議、中央委員会第3回総会(3中総会)が先月9日に開幕する直前、ある“ドキュメンタリー”映画がインターネットに流出し、中国国内で大きな話題となった。
タイトルは「較量無声」(声なき戦い)。中国軍の国防大学、総政治部、総参謀部などが合同で6月に若手将校向けに内部資料として制作した映画だ。
■宣伝映画すぐ削除
映画では、「米国をはじめ外国勢力は常に中国の政権転覆を狙っており、文化の浸透や、反中勢力の育成など5つの陰謀を巡らせている」といった“陰謀論”が展開される。
「旧ソ連の解体」や「中東・アフリカのジャスミン革命」も米国が裏で仕掛けたものと決めつけ、「西側社会の神話を信じれば、政権は衰退と滅亡の運命をたどることは避けられない」と結論づける。その上で、国内の改革派知識人、茅于軾氏らを「米国の代弁者」と名指しで批判した。
ネットには、「中国の置かれている危機的状況をわかりやすく教えてくれた素晴らしい教材」といった感想が数多く投稿された。その一方で、「冷戦時代の発想で、論理も破綻している」との厳しい意見もあった。
この映画で特に注目されたのは、プロデューサーが、習近平国家主席が所属する太子党(元高級幹部の子弟グループ)の有力者である劉亜洲大将だったことだ。国防大学政治委員を務める劉大将は習主席の軍内の腹心として知られる。それだけに映画は習主席の考え方を反映していると推測する共産党関係者は多い。
この映画がインターネットで見られたのは数日間だけ。その後、全てのサイトから削除された。その背景を、ある党関係者はこう解説する。
「3中総会で政局の主導権を握るために、保守派や軍部が世論作りの一環として意図的に映画を流出させたが、米国との関係を重視する改革派がその内容に強く反発し、ネット警察を使ってすぐに映画の禁止に踏み切ったのが真相だ」
■予算増額喜ぶ幹部
「昨年11月に習近平体制が発足した後、党中央には外交政策をめぐり常に2つの声があり、現場は混乱している」。共産党筋はこう明かした上で、「一番迷走しているのは対日外交だ」と説明する。
同筋によると、11月23日に東シナ海上空の防空識別圏設定を決めたのは、軍関係者や保守派などを支持基盤に持つ習主席周辺だという。「習政権が軍の支持を固めるための手段だ」との指摘もある。
防空圏ができたことで、中国空軍の同空域における活動範囲は以前の12倍に拡大したという。防空ミサイル部隊の人員や装備も補強される予定だ。「来年の国防予算は大幅に増額されることが予想され、軍幹部たちは大いに喜んでいる」と党関係者は話す。
また、来年春に発足する「中国版NSC」といわれる国家安全委員会も日本を主要な仮想敵としており、委員会内に日本担当の部署が設けられるとの情報がある。反日感情の強い世論に対し、対日強硬姿勢を訴えることで、政権の求心力を高めるのが狙いだ。
こうした動きに対し、李克強首相ら胡錦濤前国家主席が率いる派閥のメンバーは、強く反発しているという。実務官僚や地方指導者が多い胡派は、日本企業の対中投資や技術提供の減少による中国経済への悪影響を懸念している。
防空圏発表4日前の11月19日、胡派の有力者、汪洋副首相は、訪中した日中経済協会のメンバーと会談して日本との経済交流の重要性を強調し、習主席らの対日姿勢と一線を画した行動を取った。
■実績は「対日強硬」
「闘争の目標を日本に定めよう。中日の軍用機が空中で接近した場合、不測の事態を怖がらない決心と勇気が必要だ」(11月29日付、環球時報社説)
「中国は争いごとを全く恐れていない」(同日付、国際先駆導報の寄稿)
中国メディアは最近、「日本との武力衝突は避けられない」との見方をさかんに流している。しかし、共産党関係者は「ポーズにすぎない」と分析する。「習体制は国内をまとめるのが精いっぱいで、外交環境を改善するゆとりはない」
習体制が誕生して1年あまりたったが、成果といえるものはほとんどない。株価も景気も低迷し、外資は次々と中国から引き揚げ、多くの地方政府は財政破綻の危機にひんしている。物価も高騰し、空気汚染などの環境悪化も深刻だ。
外交面でも米国や周辺国との関係は一向によくならず、中国包囲網が形成されつつある。習体制が国民に対し実績として自慢できるのは、対日強硬姿勢を続けたことだけという冷めた見方もある。
共産党元高官によれば、党内には、習主席の政治、外交、経済政策に大きな不満を持つ人が多いが、今は静観している。今後、習主席が大きな失敗をしたとき、改革派らが一気に政権の主導権を奪う動きに出てくる可能性があるという。
内政、外交の足並みがそろわず、中国の共産党内の「声なき戦い」は続く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
終わりのない挑み合いが続く国際社会。生き抜く力を日本は試されている。
知日派も「慰安婦」うのみ、国際世論の主戦場・米でも後手に
source : 2013.12.06 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
知日派で知られる元米国務副長官、リチャード・アーミテージの唐突な言葉に自民党の国会議員たちはあっけにとられた。「悲しい思いをした女性が一人でもいるなら、それは決して許される問題ではない」
東京・永田町の党本部で10月31日に開かれた政策勉強会「経済活力・雇用創出研究会」。日米同盟の重要性や経済問題について講演と質疑応答を終えた後、突然、激しい口調で慰安婦問題について発言し始めた。日本が慰安婦を強制的に集めたとする韓国側の言い分に沿ったものだ。
「なぜいきなりそんな話をしているのかと不思議に思った」。出席議員の一人は振り返る。アーミテージは、特に安全保障面で安倍晋三政権を支持する言動で知られる。それが慰安婦問題では、日本の立場にはほとんど理解を示さない。
安倍首相の靖国神社参拝に理解を示す米国ジョージタウン大学教授のケビン・ドークさえ「慰安婦を利用していたこと自体が非道徳的で罪」とし、元米国務省日本部長のケビン・メアも「外国では誰も同情しない」との立場だ。
知日派たちのこうした態度は、慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の「河野洋平官房長官談話」の根拠となった元慰安婦からの聞き取り調査が極めてずさんだったことが明らかになっても変わらない。
アーミテージらは昨年8月に出した日米同盟に関する報告書でも歴史問題に触れている。「日本は日韓関係を複雑化してやまない歴史問題に向き合うべきだ」と主張する。北朝鮮や中国に対する日米韓の連携を重視するがゆえの意見だが、日本側には受け入れがたい一方的な考え方といえる。
■韓国がロビー活動
「慰安婦問題について、米国で日本が反論できる言説空間はない」。米国情勢に詳しい日本政府関係者は話す。国際世論作りの主戦場である米国で後手に回り続けてきた日本は挽回の機会さえ失いつつあるという。
「韓国は国を挙げて慰安婦問題のロビー活動をしており、米政府内には韓国側の主張が浸透している」。ある閣僚経験者は、在京の米国大使館関係者から最近、こう言われた。
日本政府は、遅ればせながら積極的な対外発信に取り組み始めた。政府高官は「来年度の対外広報予算を倍増する」と断言する。慰安婦問題でも日本の立場を積極的に発信する方針だ。だが、米国での広報戦を担う肝心の外務省には躊躇(ちゅうちょ)する空気が漂う。
「日本側が下手に『ドラ』を鳴らせば、相手がこれを聞きつけて集まり、さらに大きな音で『ドラ』を鳴らされかねない」。外務省幹部はこう危惧する。
米国やカナダで、慰安婦問題に強い関心が持たれているのは、韓国系住民が集中して一定の影響力を持つ地域に限定されている。それ以外の韓国系住民の中には慰安婦問題の動きを知らない人もいる。日本が大々的に動けば、問題が拡散し「寝た子を起こす」ことになりかねないというのだ。
■「河野談話」足かせ
もちろん、外務省も動いてはいる。在米の大使館や領事館に対し、細かな情報でも報告するように指示。「火消し役」の領事館員を東京から現地に派遣している。実際、「韓国系市議が像設置を市長に働きかけた」「慰安婦に関する市民集会に市議数人が集まっていた」という情報が多く集まってくる。
そのたびに領事館員が現地に出向き、慰安婦問題を含め日韓間の請求権問題は昭和40年の日韓基本条約と日韓請求権・経済協力協定で解決済みであることなどを、地域の実力者や地方議員に訴え、像の設置などに賛同しないように働きかけている。ただ、足かせになっているのは、やはり強制性を認めた「河野談話」だ。領事館員たちは、それを否定するところまでは踏み込めないという。
これまでの「事なかれ主義」は、6年前の米下院による慰安婦非難決議や、それを根拠とする米国東部ニュージャージー州や西部カリフォルニア州での慰安婦碑、慰安婦像の設置につながった。外務省幹部は「放っておけば鎮火すると思われていた山火事は広がる一方だ」と自嘲気味に語る。
人権問題の象徴になりつつある慰安婦像、他都市に飛び火も
source : 2013.12.06 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
慰安婦を象徴する少女像を設置した米カリフォルニア州グレンデール市の市議会で11月5日、「市民による意見表明」が開催された。市民が市政に関して自由に発言できるこの場は、ふだんは生活に関係する身近なテーマがほとんどだが、この日は、市長デーブ・ウィーバーと日本を糾弾する声であふれた。
5人の市議の持ち回りで市長を務めているウィーバーは7月、米西海岸で初めてとなる慰安婦像設置の賛否を問う市議会で、唯一反対を表明。同月中に像が設置された後、産経新聞など日本メディアの取材に「日韓の問題になぜグレンデールが首を突っ込まなくてはいけないのか」などと発言していた。
議場では韓国系の住民が次々と「意見表明」した。「市長は慰安婦問題を日韓間の問題とするが、それは、人々の関心を、人権問題という本質からそらすことになる」。こう発言したのは若い韓国系女性。カリフォルニア州全市に慰安婦像設置を呼びかけている「カリフォルニア州韓国系米国人フォーラム」(KAFC)のメディア担当者だという。
中国で5年間、科学の教師をしていたという白人男性も一気にまくし立てた。「アジアで旧日本軍がやったことに比べれば、ヒトラーのソ連侵攻は子供の遊びだ」。この日の「意見表明」では、発言に立った14人のうち9人が慰安婦像に言及した。
市民の発言後、像設置で中心的役割を担った市議のフランク・クィンテロが口を開いた。「市議会は正しいことをやっている。旧日本軍が満州からアジア南端まででやったことはホロコーストなのだ」
ウィーバーは最近、不測の事態に備え、移動の際に警護を付けている。
■本来は政府の問題
「意見表明」の数日後、グレンデール市庁舎の応接室で、姉妹都市の大阪府東大阪市の市議、樽本丞史(じょうじ)(45)=自民党=は、クィンテロに向き合っていた。私費を使って単身で乗り込んだ。
樽本が像設置に対する抗議文を差し出した途端、クィンテロが表情を険しくした。「あなたは『南京大虐殺』を勉強したことがあるのか」。また、日本をおとしめようとする一方的な歴史認識が持ち出された。
グレンデール市のホームページには、東大阪市が像設置に賛同したかのような虚偽の記載があり、抗議文ではこの修正も求めた。両市がともに慰安婦問題の検証を行うといった条件も示したが、クィンテロは「難しい」と一蹴した。
樽本は市を代表する立場で訪米したわけではなかったが、東大阪市長の野田義和(56)も「年内までは我慢するが、それ以降も改善されない場合は姉妹都市の関係の凍結を考える」と話す。そのうえで「本来は政府、外務省が米国政府などに、しかるべき対応を迫らなければいけない問題だ」と指摘した。
■まずは「韓国庭園」
グレンデール市の近隣でも、像設置を目指す動きがくすぶっている。
ロサンゼルス近郊のアーバイン市は11月12日の市議会で、現存する広大な記念公園の一角に「韓国庭園」を造成することを決めた。
2015年から着工し、270万ドルの造成費は韓国のNPOが負担するという。現時点で詳細は決まっていないが、慰安婦像設置の可能性もささやかれる。
同市の市長は2代にわたり韓国系。市は9月、それまで友好都市提携をしていた韓国・ソウル市瑞草区との関係を姉妹都市に格上げすることを決めた。市長のスティーブン・チョイは庭園造成が議会で認められる直前、瑞草区を訪れ、提携を祝った。
グレンデール市も、韓国の複数の都市と友好都市や姉妹都市として提携しており、公園の建設計画から像設置へとつながっていった。「同じことがアーバイン市で繰り返される可能性は否定できない」。こう考える在米日本人は多い。
米ガス田狙う、中国からの「偵察隊」
source : 2013.12.07 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
米国ウェストバージニア州。面積は全米41位、人口38位、8割が森林に覆われているこの州で、1年ほど前から山間部を訪れるアジア人の集団がうわさにのぼるようになった。「中国からの『偵察隊』だ。散発的にやってきては帰っている」。州政府幹部は話す。
偵察隊の狙いは、同州を含む4州に広がる世界最大級のガス田「マーセラス・シェール」。エネルギー革命を起こすといわれる新型天然ガス「シェールガス」の宝庫だ。鉱区内の地主を個別に訪問し、情報収集しているとみられる。
優遇税制で外国企業の投資を積極的に受け入れている同州には、トヨタ自動車などの日本や欧州企業が進出、約2万4千人の雇用を創出している。対照的に中国企業の工場は1社だけ。州政府幹部は「中国の投資の動きは資源に狙いを定めたものが中心だ」と話す。
■需要増の4割が中国
日本エネルギー経済研究所によると、世界の天然ガス需要は今後30年間で21億トンの増加が見込まれる。増加分の5割弱はアジア、うち4割強は中国が占めるという。
「中国では1次エネルギー消費の約7割は石炭が占めるが、大気汚染問題など環境対策を強化すれば、天然ガスへのシフトが進むだろう。問題はどう手に入れるかだ」。同研究所首席研究員の小山堅はこう分析する。中国は現在、天然ガスの自国開発を進めながら、多くを中東などに依存。次の照準を北米のシェールガスに定めたようだ。
中国の国有石油会社、中国海洋石油は米国テキサス州などでシェールガス田の権益を取得し、カナダでも同様の動きを進める。ただ、米国は、同盟国の日本などを除き、自由貿易協定(FTA)未締結国に天然ガスの輸出制限を設けているため、中国が米国で権益をどれだけ取得しても、現時点では自国へ持ち込めない。
それでも投資を惜しまないのは、「自国での開発に役立てるためだろう」とエネルギー問題に詳しい常葉大経営学部教授の山本隆三は指摘する。
■自前調達へ技術課題
実は、中国には31・6兆立方メートルのシェールガスが埋蔵されており、米国の1・7倍に相当する。だが、米国とは異なり、シェールガスを含む頁岩(けつがん)層が地下数千メートルと深いうえ、地層が複雑に入り組んでいる。これらの問題を解決する高度な技術力が備わっていないことが自前調達の最大のネックになっている。
「米国での投資はシェールの掘削技術を獲得するためだ」。石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルと事業規模で肩を並べる中国最大の国有石油会社ペトロチャイナの担当者は、こう公言する。
米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は11月20日、中国の動向を説明した年次報告書を公表した。その中で、中国による米国へのエネルギー投資について多く言及されたことが、政府関係者らの目を引いた。
『中国の対米投資の44%はエネルギー関連にあてられている』『中国政府の戦略に従って、米国のシェール開発の技術取得などを目指している』
報告書には、米国の強い警戒感をにじませる文言が並んでいる。
「資源戦争」 全世界の1割占める資金力で席巻
source : 2013.12.07 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
「話にならない。技術を流出させるつもりはない」。米国ウェストバージニア州などのガス田「マーセラス・シェール」に権益をもつ資源開発会社ドミニオン社の幹部、ボブ・オウンドルフは、中国企業が投資を持ちかけてきても断るつもりだという。
ただ、米国側がオウンドルフのような考えで統一されているわけではない。米政府の輸出規制で、中国が米国産の新型天然ガス「シェールガス」を輸入するのは難しいが、ガス田の権益取得に関しては「米国側は容認し始めている」(商社関係者)。
米国でのシェールガスの開発エリアは南部、東部と広がりをみせており、掘削業者は独立系の中小企業が多い。日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構は「常に資金が必要で中国企業の投資も受け入れている」とみている。
日本にとって、米国は天然ガスの重要な輸入元だが、中国の影響力が増すことで変化が生じる可能性もある。
昨年1年間で世界の石油、天然ガスの権益取得に投じられた資金の1割は中国の国有石油企業3社で占められており、その豊富な資金力は他国の脅威となっている。
「鉱区開発などの入札では、信じられないような巨額の金額を提示する」(商社担当者)。天然ガス関連の受注競争で日本が中国に競り負けることは少なくない。
■採掘技術取得狙い
埋蔵量だけをみると、世界最大のシェールガス大国である中国は、2015年に65億立方メートルを採掘する目標を掲げている。ただ、今年の採掘量はわずか2億立方メートルの見込み。石油天然ガス・金属鉱物資源機構の主任研究員、竹原美佳は「現実的には、目標達成は不可能」と見通す。技術力の弱さに加え、ガス採集の際に使用する水の不足など構造的な問題があるためだ。
そこで、中国は米国が持つシェールガスの掘削技術の取得に狙いを定める一方、カナダ産の天然ガスにも触手を伸ばす。カナダはこれまで米国を主要な輸出先にしていたが、米国のシェールガス革命で輸出量が減少。その焦りをつくように、中国は国有石油会社を通じてカナダのエネルギー会社ネクセンを買収するなど、天然ガスを手に入れる新たな道筋を付けた。
■習氏の権力基盤に
「中国版シェールガス革命は、習近平指導部にとって中国共産党内部での権力基盤確立のカギになる」
中国の石油産業の関係者は、共産党が中長期の経済政策方針を定めた11月の第18期中央委員会第3回総会(3中総会)後に公表した決定文書から、こう読み取った。決定文書には「市場の力で決められる価格は市場に委ねる」との姿勢が示され、そこに「石油や天然ガス」との項目があったからだ。
「習指導部の主導でシェールガスの開発を進め、石油や天然ガスの既得権益層を取り込めば、昨秋まで共産党中央で政治局常務委員を務めた周永康ら石油閥の大物との権力闘争に勝てるとの思惑が見え隠れする」
中国紙によると、中国政府は年内にもシェールガスの探査や開発などに関する新たな規則を公表するという。中国のシェールガス戦略は次の段階に入りつつある。
中国の「3D複製」 驚異の革新技術で模倣被害は倍増する?
source : 2013.12.08 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
全米を驚かせるニュースが流れたのは11月8日のことだ。
テキサス州の銃器専門メーカーが、データをもとに立体造形物を複製できる3Dプリンターを活用し、軍用自動拳銃「M1911」の作製に成功した。実弾50発以上を発射、約27メートル先の的に命中させて実用性の高さも証明した。
3Dプリンターは、拳銃にとどまらず、他の兵器でも基幹部品を入手すれば容易に複製できる可能性があり、軍事機密が漏れるのと同様の脅威だ。米国防総省は警戒を強めており、これまでも知的財産の問題などで先進国と摩擦を起こしてきた中国の動向に神経をとがらせている。
■完成度高く安価
東京・秋葉原。米国のIT機器販売会社のブルレーが9月、3Dプリンターのショールームをオープンした。展示品の大半は30万円程度の米国製だが、客の関心を最も集めているのは19万9800円という格安製品。中国・北京の機械メーカー、デルタ・マイクロ・ファクトリーが開発した。
この製品は既に米国でも販売されており、現地の専門誌でトップクラスの完成度という高評価を得た。日本でも計測機器大手のキーエンスなどが3Dプリンターを製造・販売しているが、海外進出の事例はない。
「中国は日本を早々と追い抜き、3Dプリンター先駆者の米国製品に、品質でも販売網でも肩を並べ始めている」。ブルレー日本支社長の杉本健人はこう指摘する。
■米抜き首位狙う
日本や欧米が注目する1冊のリポートがある。
米調査会社のウォーラーズ・アソシエイト社が年に1回発行する「ウォーラーズ リポート」。3Dプリンターに関して世界的に権威の高いリポートだ。
近年のリポートにはこう明記されている。
《中国の華中科技大学は3Dプリンターで目覚ましい活躍を見せる世界最高の実力を持つチーム》
華中科技大学は、低価格で高性能の3Dプリンターを実現する研究成果を数多く生み出してきた。ほかにも西安交通大学や清華大学などが、米国企業が製品化に取り組み始めた時期とほぼ同じころの1980年代から3Dプリンターの研究開発を進めてきたという。
このリポートなどによると、2012年の中国の3Dプリンター普及台数は米国の4分の1。ただ16年には、中国の3Dプリンター市場が100億元(約1600億円)と世界最大に成長すると予測されている。
米国企業が保有する3Dプリンター関連の基本的な特許の期限が次々と切れ始めている問題もある。中国が米国を追い抜くことが現実味を帯びている。
■模倣被害急増も
フランス・パリが本部の国際通商組織「国際商業会議所」(ICC)などによると、3Dプリンターがほとんど使われていない現在でも模倣品の被害額は全世界で年間50兆円以上に及ぶ。
特許庁が日本企業約400社を対象にした調査では、平成19(2007)年度に数百億円だった被害総額が23年度には1千億円を突破した。日本の家電メーカーのある幹部は「3Dプリンターの登場で日本の模倣被害は今の倍に膨れあがる」と危機感を募らせる。
米国は正式な複製部品と偽造コピー部品を区別する3Dプリンター用ツールの開発に取り組むなど対策を強化しているが、中国はそれを上回るスピードで技術開発を進めている。
一方の日本は、経済産業省が10月に3Dプリンターの活用方法などを議論する会合を初めて開いたばかり。模倣品の増加や犯罪などを封じ込める対策は議論されていない。
「製造業の次の革命は米国が起こす」
米大統領のオバマは2月の一般教書演説で、米製造業の復活を創出する技術として、3Dプリンターの活用を取り上げた。その技術革新が、また新たな摩擦を生みつつある。
「今後50年は変わらない」中国の弱点研究が不可欠
source : 2013.12.11 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
世界はにわかに緊迫の季節を迎えている。日本、中国、韓国が囲む東シナ海海域の波はことさら高い。自国の権益拡大に腐心する弱肉強食の「新帝国時代」となった今、日本人と日本国家が生き残るためには何をすべきだろうか。5人の識者に聞いた。
■今後50年変わらず
尖閣諸島(沖縄県石垣市)を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定した中国。元外務省主任分析官、佐藤優氏は「日本と中国が友好国になることはない」と断言する。「意思、能力の双方において、日本を侵略する可能性がある中国は現実的脅威。日本を敵とするイメージで、近代化による国家統合を図ろうとしている。今後50年は変わらない」
佐藤氏は、中国の弱点に関する戦略的研究の必要性を説く。「天安門前で起きたウイグル人の自爆テロで、国家安全部が習近平(国家主席)から叱責されて動揺しているからだ」
中国当局は自爆した車内に宗教的スローガンが書かれた文書があったと発表した。「ウイグル人は、ウイグル民族でイスラム教徒という複合アイデンティティーを持つ。アルカーイダとつながる国際テロリズムが本格的に入っている可能性もある。そうすると尖閣でいたずらをしている余裕はない。新疆ウイグルに関するきめ細かい分析がこれから大変重要になる」
ところが外務省にウイグルの専門家はいない。「ここを重点的に強化すべきだ。内閣情報調査室や防衛省も専門家を養成して中国の弱点を本格的に見なければいけない。(日本に面する)東正面からだけではなく、裏の西側からも弱点を見なければいけない」
中央アジアでは伝統的にロシアの影響力が強い。「ロシアと、中央アジアや中国情勢をめぐる戦略的協議を進めることは意義がある。まず『主敵』は中国と確定し、日本が生き残るため何ができるかを戦略的に組み立てる時期に来ている」
■経済で相互に利益
楽観論もある。元日銀北京事務所長の瀬口清之氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)は、「経済的には、40年を超える関係構築の土台があり、緊密な交流ができる」と語る。昨年9月、大規模な反日暴動が起きたが、3カ月後にはほとんどの日系企業が売上高を前年水準まで戻したという。「中国で起きたデモも『日本企業を守れ』と指示が下りて、警察官が日本企業に触れさせないように警備した。暴動以降のデモはほとんどがやらせで、市民は参加させず、経済的に日本企業を守ったのが中国政府の真意」という。
日本から中国への直接投資も回復している。瀬口氏は「ウィンウィン(相互利益)の関係を構築したい。経済では互いに必要としており、尖閣問題があっても乗り越えられる」と言う。ただ、「武力衝突になれば、日本企業の強制撤退もありうる。最低限、尖閣問題レベルで止めてほしい。そのためには、緊密な情報交換が重要。今は、それができそうな雰囲気だ」とみている。
■人的交流の再開を
前駐中国大使の丹羽宇一郎氏は、「中国は、隣国として長くつきあっていくしかない国だ」と考えている。「13億人を超える人たちの衣食住など日本が中国をビジネスに活用しない手はない」。関係改善に向けて、「中断している青少年交流や地方との交流を早く再開しないと人の感情をほぐすのが難しくなる。青少年ボランティアのような地道な活動を続ける以外道はない」と提案する。
日中首脳会談の可能性については、「日中韓の首脳会議が来年、韓国で開催されれば、絶好の機会だ。まず外相が正式会談し、タイミングをはかればいい。来年は可能性が大いにあると、11月に訪中して感触を得た」と見通す。
ただ尖閣問題の行方については「領土も主権も、中国が話し合いで譲ることはありえない」とみる。「戦争だけはやめようということを話せばいい。国交回復に関わった政治家や民間の先人の努力を水泡に帰してはいけない」と訴えた。
佐藤氏も「国家間では友好関係が構築できなくても英国とアイルランドのように個人やビジネスで良好な関係を築くことは可能だ」とみているが、「民間レベルで経済協力、人的交流を推進することは国家間のつかみ合いのけんかを抑止する上で意義がある。ただし、それだけでは国家間関係はよくならないことを冷徹に見据えておくべきだ」と強調する。
中韓分断へ「特使外交で局面打開を」 佐藤優氏
source : 2013.12.11 産経ニュース (ボタンクリックで引用記事が開閉)
慰安婦問題などで反日政策を続ける韓国。元外務省主任分析官の佐藤優氏は「韓国(の国力)は弱い。その韓国が強い中国とつながるようなシナリオは極力避けるべきだ」と話し、中韓関係の分断を提言する。そこで、「特使外交」による局面打開が必要だという。「安倍晋三首相が朴槿恵大統領に特使を送り、『何をやってほしいのですか』と尋ねる。それを丸のみしても関係悪化を止め、中国との間に楔(くさび)を打ち込める」
佐藤氏は「これこそが帝国主義時代の外交だった」という。「首脳が外交に乗り出す前に水面下で特使による秘密外交を行う。官僚組織が硬直化して通常の外交ルートで突破口が開けないからだ」
佐藤氏によると、より「深刻」なのは、戦時中の韓国人徴用に対し、韓国で日本企業に賠償支払いを命ずる判決が地裁や高裁で相次いでいる徴用工問題だという。「賠償命令が最高裁判決で確定すると、韓国は国家方針の外交課題として日本に押し付けてくる。その場合、軟着陸させなければならなくなる」
本来、昭和40年の日韓請求権協定で解決済みの問題だが、佐藤氏は「人道的に民間の義援金として支払う」ことを提案する。「政府は器だけを作り、お金は民間企業が入れ、そこの基金から出せばいい。それを国際社会に訴える。韓国側が拒否しても、少なくとも日本政府が誠心誠意対応した形は残る」
西岡力東京基督教大学教授は違う立場だ。「日本側が金を出すことがあれば、今後も際限なく理不尽な要求が続く危険がある。毅然(きぜん)たる対応を取ることが日韓関係を好転させる」
そのうえで西岡氏はこう強調する。「この問題は日韓請求権協定で『完全かつ最終的に解決』している。日本はこれに基づき無償3億ドル有償2億ドルの経済協力を実施した。当時の外貨準備高が日本は18億ドル、韓国は1億3千万ドル。韓国政府発行の白書によると、同資金の韓国経済成長への寄与度は19%にのぼる。6年前、当時の盧武鉉政権が徴用工への補償は日本に求められないと結論づけている」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
安倍政権発足以来、4回の首脳会談を行い、急速に進む日露関係。佐藤氏は、北方領土問題の解決などに行き着くには、両国とも外務省に問題を抱えていると指摘する。「両首脳の個人的信頼関係は十分できつつあるが、問題は、そのレベルに両国外務省が追いついていけていないことだ。ロシア外務省はサボタージュし、日本外務省は、そのサボタージュを阻止する力がない」
両国ともに平和条約を締結する政治意思が固まれば、その先は技術論になる。「外務省ルートで進められないなら、首相の個人代表を特使に任命すべきだ。例えば、国家安全保障局の初代局長になる谷内(やち)正太郎内閣官房参与。森喜朗元首相もいい」と提案する。
適任者はロシア側にもいるという。「石油会社ロスネフチのイーゴリ・セチン社長などプーチン大統領の窓口になる人物を設定して特使間の外交、秘密交渉で、相当部分を詰める。通常ルートとは違う潜在力を使わなくては動かない」
佐藤氏は、これまで日露接近の度に反対してきた米国が今回は静観するとみている。シリア問題でロシアと妥協した米国は世界の警察官から「戦線縮小」しつつある。
「背景に対中牽制(けんせい)もある。米国はいろいろな問題に首を突っ込まなくなっている。日露関係は米国にとって死活的利益に関係する話ではない」
北方領土問題解決について、佐藤氏は「来年1年間が勝負」だという。「プーチン大統領の訪日までにどこまで動かせるかが鍵。ある程度のことが動いていないと大統領は来ない。今度は成果を出さなければいけない」
最終的に平和条約を結ぶとしたらどうなるのか。今年7月、東郷和彦元外務省欧州局長とロシアのアレクサンドル・パノフ元駐日大使が論文を発表し、歯舞、色丹2島返還と国後、択捉2島で共同経済活動を行う提案を行った。佐藤氏は「交渉のたたき台になる」と評価する。
「現実的に考えると、この案に落ち着くのではないか。2島返還。残り2島を特別の法的地位を与え両国で共同開発。それ以外ではロシア側の折り合いがつかない。日本側の世論は政権の指導力にかかってくる」
佐藤氏はロシアとの関係改善の重要性を強調する。「対中牽制、エネルギー戦略上、必要だ。このことを国民にきちんと説明していくことは必要だろう」
一方、中西寛京都大学教授は楽観論を戒める。「日露関係が進むことは対中牽制になり、対米でもプラスになり好ましいが、現状で高い期待を持つのは行き過ぎではないか。4島一括はもちろん、日本が多少譲歩してもプーチン大統領が乗って来る可能性は低い。現在の安全保障強化から徐々に協力関係のレベルを上げていくのがよいのでは」と語った。
さらに中西氏は、「日本には、広報やパブリックディプロマシー(外交の広報戦略)に戦略性が不足している」と分析し、外交全般における発信力の強化を提起。「日本の主張が東アジアの平和と安定にどう結びつくかを、第三者に響くような形で訴えなければいけない」と主張する。
新帝国時代を乗り切るには、従来の手法や発想を捨てるのが第一歩となりそうだ。
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