2016/03/01

【高橋洋一】日本のGDPを引き上げ、アベノミクスを「合格点」へと導く効果的な一手をここに示そう

 source : 2016.02.29 現代ビジネス (クリックで引用記事開閉)

■現時点でアベノミクスに評価を下すなら




週刊誌は見出しが勝負だ。派手な「見出し」をつけて、読者を引き込めば勝ちだ。
著者が執筆した原稿でも、見出しだけは、週刊誌の編集者が勝手につける。このお約束は常識だ。

「週刊現代」2016年2月27日号に、筆者が応じたインタビューが掲載されている。内容は、2014年4月からの消費増税が日本経済に与えた影響について論じたモノだ。本コラムの読者であれば、何回も読んだことのある話である。

ところが、その見出しは「アベノミクスついに沈没 『消費税8%』がすべての間違いだった」となった。これに多くの人が反応したようで、記事の反響も大きかったようだが、これは週刊誌の編集者の勝ちだ。みんな、編集書の思うツボになったわけだ。

その中身は、2014年4月からの消費増税は日本経済に悪影響を与え、GDP20兆円分を減らしたことになるというものだ。取材時には左の図をつけて説明したが、週刊現代には載っていない。だからここに載せておくが、この図は、消費増税前の成長傾向(駆け込み需要を除く)を延長して、増税がなかった場合の成長を示している。

図こそ載っていなかったが、インタビュー内容の記述は正確である。その点、週刊現代の記者はしっかりしている。

筆者は、経済を雇用とGDPの両方でみる。雇用についていえば、安倍政権はしっかりとしていて、金融政策によって雇用を増やしている。しかし、GDPは2014年4月の消費増税によって失速している、このGDPについての部分をインタビューで述べた。週刊現代の見出しは、この部分だけについて触れていることになる。

見出しで「アベノミクスはすべてがだめだった」と勘違いした人は、まんまと編集者の思惑にはまったわけだ。正確にアベノミクス全体についていうなら、雇用は良いが、GDPはいまいちというところだ。

もっとも、GDPを引き上げるのはそれほど難しいことではない。本コラム(例えば2016年1月4日付け「2016年、日本の景気が悪くなる要素が見当たらない~「国債不足」に「追加緩和」そして「埋蔵金バズーカ―」まで飛び出す!?」)でも書き、週刊誌のインタビューでも言及した「埋蔵金バズーカ」を使えばいいのである。

■さらなる一手を示す

ただ、それだけではない。本コラムでは、GDP引き上げのためのさらなる政策手段があることを示そう。ちなみに、これから述べる公共事業について先にひと言。筆者はときどき「反公共事業派」と言われることもあるが、そうしたことを言ったことがない。世の中のレッテル貼り論者は、調べもせずにデタラメをいうものだ。

公共事業については、採算性をB/C(コスト・ベネフィットを計測して、ベネフィットがコストを超えるモノだけを公共事業として実施する)で行うべきと主張してきた。これは当たり前の基準であり、先進国ではどこでも採用している。

一部の公共事業派は、B/Cを無視、というか配慮せずに行うべきと主張する。それには反対であるが、B/C基準をみたす、つまりベネフィットがコストを超える限り、公共投資に制限はないと考える。

ちなみに、筆者は、本コラムでB/C基準を適用せずに公共投資を削減した民主党時代を批判もしている(2015年9月14日付け「鬼怒川決壊?常総市の失敗と、治水予算を2割削った民主党政権の責任を考える」)。今の経済状況を考えると、B/C基準をクリアできる限り、思いっきりインフラ整備を行ったらいい。

ただし、公共事業派がいう、「便益の現在価値を計算するときの割引率は4%」というのは大いに疑問である。

これは、イールドカーブでいえば、4%のフラット・イールドを想定することに他ならない。縦軸に金利(利回り)、横軸に期間(残存年数)を取ったイールドカーブでは、長期の金利が短期の金利よりも高い右肩上がりの曲線(順イールド)や、長期の金利が短期の金利よりも低い右肩下がりの曲線(逆イールド)となるが、フラット・イールドとは、それが平坦(傾きが緩やか)になっていること。長期でも短期でも金利が変わらないとみなされていることを示す。

今の国債イールドカーブは上図の通りである。

お分かりのように、10年くらいまでマイナス金利が続くのである。このようなイールドカーブが形成されるのは、1年後、2年後……と将来の短期金利が低いままであると予想されるからだ。ちなみに計算すると、7年程度先まで、短期金利はマイナスになる。

■新規国債発行がイヤなら、こんな手がある

こうしたイールドカーブであれば、B/C基準の割引率は、それぞれの期間に対応した割引率を用いるか、一律では0.5%程度の割引率を用いれば十分であろう。こうすれば、B/C基準によって採択可能な事業は大きく増加するはずだ。今の金利環境は、こうした事業の採択可能性を増やしているのだ。

逆にいえば、この程度の低い割引率でもB/C基準をクリアできないようなら、筋の悪い事業なので止めて、他のプロジェクトを考えた方がほうがいいということだ。

こうした公共事業のプロジェクトの財源は、前述の埋蔵金を充ててもいいが、新規国債でも問題ない。

新規国債発行というと、政府の財政再建目標との整合性を問題視する向きもある。金融環境や今の日本の財政事情から、筆者は財政再建の必要性は認めるものの、その優先順位はそれほど高いとは言えないという立場だ。

日本の財政事情については、2015年12月21日付け「「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした~それどころか…なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう!この国のバランスシートを徹底分析」を参照されたい。

ただ、財務省は2020年でのプライマリーバランス(基礎的財政収支)の均衡を気にするだろうから、新規国債には及び腰なはずだ。これに対して、財務省公認の「財投債」(財政投融資を行なう資金調達のために発行する債券)を使った裏技を紹介しよう。

筆者は、元大蔵官僚として財投改革における「財投債」の企画発案者なので、こうした手法を知っているが、あまり本質的な話ではない。あくまで“財政再建目標は優先順位が低い”が本筋である。なお、筆者が企画した財投改革に興味がある方は、完全な専門書であるが「財投改革の経済学」を参照していただきたい。

■G20の要望にも合致する

さて、政府のプライマリーバランスは、国民経済計算における数字を使っている。

そこでは、「財政収支は国民経済計算における中央政府及び地方政府の純貸出(純借入)。基礎的財政収支は財政収支から純利払い(利払い[FISIM調整前]マイナス利子受け取り[FISIM調整前])を控除したものである」とされている。

政府の特別会計の多くは、公的部門(中央政府と地方政府)に属するが、公的企業に属するものもある。公的企業は、国民経済計算では公的部門でないので、政府のプライマリーバランスに影響しない。

財政投融資特別会計は、政府の特別会計であるが、これまで国民経済計算では公的企業と分類されている。また、財政投融資特別会計では「財投債」という債券発行が可能であるが、財投債の商品性は通常の国債と同じで、発行も通常の国債と併せて行われているので、金融商品として見た場合、通常の国債と全く同じである。

つまり、財投債で資金調達すれば、通常の国債と同じでマイナス金利のメリットがあるうえ、政府のプライマリーバランスを悪化させないのだ。

なお、財投債は通常の国債と一緒に発行されており、民間金融機関で両者の区分はされずに取引されている。もちろん、日銀の市場オペ対象でもある。

いずれにしても、今のようなマイナス金利の状況では、官民問わず投資環境はいい。もし民間が行わないのであれば、官として必要な投資を行っておくのは良い政策だ。

しかも、今の国債市場は品不足である。この影響もあって、国債金利が10年間でマイナスという状況だ。ここで、国債(財投債)を発行するのは、国債市場に国債を供給するという意味でも悪い手でない。

海外の経済状況が不透明なのも、埋蔵金バズーカや財投債発行による財政支出を後押しする。昨日閉幕した20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明(G20)では、

金融政策は引き続き、中央銀行のマンデートと整合的に、経済活動と物価安定を支えるだろう。しかしながら、金融政策のみでは、均衡ある成長に繋がらないだろう。我々の財政戦略は成長の下支えを企図しており、強靭性を高め債務残高対GDP比を持続可能な道筋に乗せることを確保しつつ、経済成長、雇用創出及び信認を強化するため、我々は機動的に財政政策を実施する。

と書かれている。まさに、この声明を達成するには、埋蔵金バズーカや財投債発行による財政支出が最適である。

■対策費用は累計30兆円規模!

G20の延長線上には、5月26~27日に行われる、G7の伊勢志摩サミットもある。日本が議長国であるが、G20での財政・金融一体的な積極活用が議題になるだろう。それは、財政再建至上主義ではなく、緊縮財政礼賛でもないはずだ。

その流れの中では、消費増税はありえないはずだ。その上に、埋蔵金バズーカや財投債発行による財政支出を行っても、政府のプライマリーバランスの均衡化には影響ないのだから、安心して財政支出を行えばいい。

政府の財政支出が向かう先として、何が考えられるか。それはまさに政治の課題である。リニア新幹線整備、耐震強化、人的資本投資などいろいろなものがあり得る。財源は、埋蔵金バズーカや財投債発行があるのだから、累計30兆円規模以上の対策について余裕をもって考えればいい。

こうした話が、これからポロポロと出てくるだろう。もちろん、今国会の会期末には、サミット後のダブル選挙もありえる。7月に参院選があるのだから、そのための政策作りは着々と行われるので、その過程で出てくるかもしれない。

なお、マイナス金利も、金融機関の評判はいまいちだが、そのうち住宅ローン保有者などの低利借り換えが進むと、目に見えて効果がわかるはずだ。例えば、5年前に固定金利3%で30年ローンを組み、残債が2500万円ある場合、残り25年の支払いを2%ローンに切り替えると、手数料を払ったとしても300万円程度支払額が少なくなる。ただし、住宅減税を受けている場合減税が受けられなくことがあるので注意すべきだ。


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