2016/01/05

【高橋洋一】2016年、日本の景気が悪くなる要素が見当たらない~「国債不足」に「追加緩和」そして「埋蔵金バズーカ―」まで飛び出す!?

 source : 2016.01.04 現代ビジネス (クリックで引用記事開閉)


■財務省の呆れた二枚舌




明けましておめでとうございます。今年も本連載をどうぞよろしくお願いします。

昨年末に公開した「『日本の借金1000兆円』はやっぱりウソでした~それどころか…なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう!この国のバランスシートを徹底分析」は多くの人に読まれたようだ。厚く御礼申し上げたい。

この分析の要旨は三つ。

一つは財政論から見て国債の負担は財務省のいうほどにはないこと。

二つ目は金融政策論の観点から、量的緩和によるシニョレッジ(通貨発行益)は国債負担を解消するとともに物価上昇圧力になること(結果として実質金利を低めて需要創出になる)。

三つ目は、統合政府のバランスシートを見れば、政府資産の大きさをはかれること、そしてその資産明細から官僚の天下り先を浮き彫りにすることができる、ということだ。

思えば、国債はいいように財務省に利用されてきた。「消費増税しないと国債が暴落する」「量的緩和すると国債が暴落する」「国際公約を守らないと国債が暴落する」「円ドルレートが120円になると国債が暴落する」「あと3年で国債が暴落する」などなどだ。

これらはすべて財務省発信の国内向けの「脅し」だ。実は財務省は、海外向けには「日本国債は安心」ともいっている。いわゆる二枚舌だ。

そこで、本コラムでは、今年の国債金利がどうなるのかを中心として、2016年、経済や金融・資本市場で起こることを占ってみよう。

■国債市場はやっぱり品不足




まず、国債を誰が保有しているのかを確認しておこう。最新の日銀の資金循環勘定をみると、グロス1040兆円の所有者がわかる。

銀行等256兆円、保険・年金234兆円、その他金融機関36兆円、一般政府・公的金融機関70兆円、中央銀行315兆円、海外102兆円、家計14兆円、その他13兆円である(左図)。

2016年度の新規国債発行額は34.4兆円であるが、先のコラムで述べたとおり、借換債を含めた長期国債発行額120兆円はほぼ日銀が買い尽くす(日銀の国債買いオペは新規80兆円、償還分40兆円なので、合計で120兆となる)。

もちろん、日銀の直接引き受けは、日銀乗換の8兆円であり、その他は民間金融機関からの買い入れである。国債入札する民間金融機関は、最終的には日銀が買い入れるという前提で入札するので、とりあえず入札シェアを確保しようとして、加熱入札になるだろう。

なにしろ、国債市場は「品不足」なので、こぞって入札に参加するからだ。このため、長期金利も低位のまま推移する公算が高い。

量的緩和を行っているので、予想インフレ率は大きく崩れない。その中で、名目長期金利も低位なので、実質金利(=名目金利ー予想インフレ率)は低く、マイナスのままであろう。これは、設備投資を押し上げるはずだ。

金融機関のポートフォリオを見ても、設備投資環境にはもってこいだ。資金循環勘定は金融機関のバランスシートの情報もあるので、今度はそれを見てみよう。

■あまった金が向かう先




金融機関は、預金取扱機関、保険・年金基金、その他に分けられるが、重要な役割を担う預金取扱機関と保険・年金基金のそれぞれについて、資産項目を現預金、貸出、国債、その他有価証券等、対外投資等、その他に分けてみよう。

預金取扱機関では、現預金403兆円、貸出718兆円、国債256兆円、その他有価証券等265兆円、対外投資等163兆円、その他21兆円の計1826兆円。保険・年金基金では、現預金23兆円、貸出54兆円、国債234兆円、その他有価証券等141兆円、対外投資等112兆円、その他30兆円の計594兆円となっている(上表)。

ここで、市中に出る国債はすべて最終的に日銀が買うことを思い出してみよう。先週も述べたが、日銀の国債買いオペは新規80兆円なので、日銀保有国債残高は80兆円程度増える。

一方、全体の国債残高はせいぜい34兆円程度しか増えない(前述のとおり、2016年度の新規国債発行額は34兆円程度)。となると、少なくとも、日銀以外の金融機関の保有国債残高は46兆円程度減少するはずだ(80-34=46)。

つまり、預金取扱金融機関と保険・年金基金の保有国債490兆円の1割程度は減少せざるを得ないわけだ。これは、それらの金融機関の保有する国債の償還分についてロールオーバーができないので、このカネは他に投資せざるを得ないことになる。資金の出し手の金融機関側の事情で、企業融資などをせざるを得ないわけだ。

もちろん、外債などに流れることもある。フローでの円安要因にも短期的になり、アメリカの利上げなど日米金融政策の差による基本的な円安傾向を押す。もっとも、短期的にはいろいろなストーリーで為替相場は上下するだろうが。

こう考えると、国債が品不足になるほどの量的緩和の効果が効いてくるので、経済の基調は悪くない。国債のロールオーバーからあぶれた資金は、株式市場にも向かうので、株式市場も需給関係は悪くない。もし、日銀が追加金融緩和などすれば、設備投資増の援軍になるはずだ。

■今年7月、「埋蔵金バズーカ」が放たれる?

さらに、金融機関のポートフォリオをみると、預金取扱機関の現預金が403兆円と大きいのに気がつく。これは、日銀当座預金のかなりの部分に0.1%の金利がついているためだ。

これをゼロまたはマイナス金利にすれば、一気に設備投資の後押しになるはずだ。本来懲罰的な意味をもっていた超低金利だが、今では単に金融機関への支援になっている。日銀にはまだこの手(当座預金の金利をゼロまたはマイナスにすること)が残されているのを忘れてはいけない。

さらに、7月にある参院選も国政選挙も景気に悪くない影響を与えそうだ。本コラムでは、アベノミクスの円安や失業率による成果として、外為特会20兆円、労働保険特会7兆円の「埋蔵金」があることを指摘してきた。

労働保険特会については、雇用保険料の引き下げを政府は検討しているので、とりあえず、何らかの手が打たれるのだろう。

一方、外為特会ではなしのつぶてだ。

埋蔵金の話は、筆者は何度もしてきているが、マスコミは話題になっていることさえ記事にしない。いや、できないと言うべきだろう。記事にすると、財務省からイヤミを言われて、日常の小ネタをもらえなくなるからだ。そうしたマスコミの事情は、筆者が小泉政権にいたときからまったく同じである。

ただ最近、日経新聞に掲載されたある個人コラムで、この外為特会=埋蔵金に触れているものを見た。財務省に気兼ねしているのか、おっかなびっくりの書き方なうえ、筆者への取材もないのは、お笑いであるが、財務省のパワーが衰えているのか、あの消費増税志向が強く、財務省ヨイショの新聞が埋蔵金の話を書くとは、いよいよ埋蔵金の「公開」も実現間近なのかと筆者は見ている。

特に、補正予算が3.5兆円としょぼいので、5月末のサミット後は国会を延長して、参院選前に埋蔵金を活用した大型景気対策をぶち上げるような気がする。もちろん、民主党の弱さを背景にして、衆院とのダブル選挙も十分にありえる。

その時になると、消費増税の先送りは与野党ともに既定路線になっている可能性が高い。もし2017年4月から消費増税したら、景気は再びマイナス成長になるのが必至だからだ。

しかも軽減税率について、あと半年というわずかな時間で、国民すべてが納得するような線引きを外食と加工食品の間に引くのは至難の業だ。であれば、国民の混乱を無視してまで、消費税を国政の争点にするはずはない。これも、消費増税スキップの根拠である。

この点でお笑いなのは、軽減税率のアメをもらった新聞が「線引きの不可解さ」を指摘する記事を書かないことだ。それに、消費増税をやりたい財務省のポチ学者も軽減税率の不合理さを言わなくなった。言えば消費増税スキップの理由にされることをおそれているのだろう。

こう見てくると、今年前半、多少景気がもたついても、今年後半には、追加金融緩和(またはマイナス金利)、埋蔵金活用の大型景気対策、それに消費増税スキップが予想されるので、景気が悪くなるとはなかなか考えにくい。

それに、国債の品不足で、低金利状況が継続して、株式市場への好影響もあるとなれば、経済での死角はなかなかみえにくい。

もっとも好事魔多しということもあり、今年5月の伊勢志摩サミットでテロなんかが起これば、好調さは一気に吹っ飛ぶだろう。しかし、こうした突発事故がなければ、参院選(ダブル選挙)での自民優位は動かないに違いない。


0 件のコメント:

コメントを投稿