2015/12/11

不正受給〝負の連鎖〟絶つすべあるか 生活保護率全国平均3倍の大阪・門真市 もはや「性善説」は破綻した

 source : 2015.12.10 産経ニュース WEST (クリックで引用記事開閉)

生活保護の受給率が全国平均の3倍という大阪府門真市で、不正受給事件や疑惑が相次いで発覚した。10月に逮捕された夫婦のケースでは、市が支給を止めたわずか2日後に再度の申告を受け付け、被害額が計約1600万円にまで膨んでいた。別の男性が受給者に設けられた特例措置を悪用し、通院で利用したタクシーの領収書を偽造して交通費約300万円を不正に受け取っていた疑いも浮上した。事前のチェック機能が働かず、事後対応を余儀なくされる「負の連鎖」。人員不足という構造的な問題も横たわるが、果たして打開策はあるのか。

■打ち切り2日後に再支給

「生活保護を受給している男が、車やバイクを所有している。仕事もしていて収入がある」

平成25年11月、匿名の情報が門真市に寄せられた。生活保護を受給している世帯は原則、車の所有が認められておらず、他人名義であっても車を運転することはできない。

名指しされた男(33)は「持病のため働くことができない」として生活保護を申請し、22年8月から支給を受けていた。市が調べたところ、男の妻(39)が車の運転を繰り返していたことが判明。文書で再三指導したが従わなかったため、市は26年3月、保護を打ち切った。

ところが、打ち切りからわずか2日後、男は「子供が3人いるが貯金がほとんどなく、生活ができない」として、再び生活保護を申請してきた。男に職があり、収入も得ているとの情報を得ていたはずの市だったが、「(情報に)確証が得られなかった」(担当者)として、車の使用を止めるよう改めて指導したうえで再支給を決定した。

果たして約4カ月後の同7月、男が大阪府内の葬儀関連会社に勤務していながら収入を申告していなかったことが調査で判明する。たまらず市は支給を再度打ち切り、警察に相談した。

実のところ、男には受給開始当初から勤務実態があり、不正受給の総額は計約1600万円に達していた。大阪府警門真署は今年10月、男と妻を詐欺容疑で逮捕したが、情報提供から実に2年近くが経過していた。

市保護課は「いったん廃止した後でも、受給者から申請があり、市として生活保護が必要と判断すれば支給するのが原則」と釈明するが、あまりにずさんな対応だったと言わざるを得ない。

■慢性的な人出不足

逮捕された男の就労実態を支給開始から約4年間にわたって市が把握できなかったのはなぜなのか。最大の理由として考えられるのは、受給者宅に家庭訪問して生活支援を行うケースワーカー(CW)の不足だ。

人口約12万5千人の門真市は、今年10月現在で6322人もの生活保護受給者を抱えている。市民の20人に1人が受給している計算で、人口に占める割合は同8月現在、府内で大阪市(5・4%)に次いで高い5・05%。全国平均(1・7%)の約3倍だ。

市によると、高度経済成長期の昭和40年代、市内に低家賃の文化住宅などが多く整備され、定住人口が急増。京阪電車や幹線道路など交通の便が良かったことも手伝って低所得者層が流入、「結果的に生活保護受給者が増えた」という。

一方、同市に配属されたCWは40人(11月末現在)で、1人当たりが担当する世帯数は約110世帯。社会福祉法が標準と定める定数(1人あたり80世帯)を大幅に上回っているが、「予算は限られており、採用人数を増やすことは容易ではない」(同市)のが現状だ。

■「性善説」で偽造見抜けず

夫婦が逮捕される前の今年5月には、別の「不正受給疑惑」も浮上した。身体障害者手帳を所持している40代男性が領収書を偽造し、タクシー代を不正に受け取っていたというものだ。

身体に障害のある生活保護受給者には、遠隔地の病院への通院など特別な事情でタクシーを利用した場合、医療扶助として交通費が全額支給される制度がある。

平成23年5月から生活保護を受給していたこの男性は、自宅から約15キロ離れた同府枚方市の病院など数カ所に月に数回、タクシーで通院していると市に申告。タクシーの領収書を添付した申請書を毎月提出し、計約300万円の支給を受けていた。

疑惑が明るみに出たのは、男性が利用していたタクシー会社に市が障害者割引が適用されているかを照会したところ、男性が提出した手書きの領収書に記載された乗務員の名前や車両番号が、架空のものだったことが確認されたのがきっかけだった。

男性は取材に対し、「運転手からもらった領収書を提出しただけだ」と疑惑を否定したが、市は提出された領収書の大半が偽造だったとみて調査を進めており、不正が確定すれば、生活保護法に基づき返還請求する方針という。

「受給者にはあくまで性善説で対応している。提出された領収書を見て、『これは本物か』とわざわざ聞くことはしない」。偽造を見抜けなかった理由について、市の担当者はこう打ち明けた。

■再発防止の手立ては…

2つのケースで見えてきた原因は、人手不足とチェック態勢の不備だ。もはや捜査機関への刑事告訴や保護費の返還請求といった「後手の対応」では、根本的な対策は望めない。再発防止の手立てはないのか。

生活保護制度に詳しい関西国際大の道中隆教授(社会保障論)は「膨大な業務を抱える現場の職員には、不正を見抜く余裕がない」としたうえで、「CWの業務の一部を民間委託して負担を軽減することが必要だ」と話す。

「生活保護受給者に働き口を斡旋(あっせん)する就労支援業務をNPO法人に依頼するなどCWの負担を軽くしたうえで、CWによる受給世帯への家庭訪問をさらに強化して生活実態をきちんと把握するようにすれば、不正受給を見抜ける可能性は高まる」と提案する。

ただ、タクシー代の不正請求のようなケースについては「遠方の病院に通っている受給者がそもそもその病院までタクシーで行く妥当性があるかを、自治体の担当者が厳しくチェックしていくしかない」とし、自ずと限界も浮かぶ。

言うまでもなく、生活保護の原資は国民の税金だ。「不遇な存在である受給者が領収書を偽造するわけがない」。こうした甘い発想はもう通用しない時代になっているといえる。

少なくとも、「性善説」に基づく行政の対応を根本から見直さなけれぱ、これからも全国各地で血税をドブに捨てる愚が繰り返されてしまう。


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