2015/12/12

「再エネ」は本当に脱原発の救世主になれるのか? ドイツの電力大手はどこも火の車だが… / 川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」

 source : 2015.12.11 現代ビジネス (クリックで引用記事開閉)

■RWEは分社化、E.ONは記録的な大赤字

2022年の脱原発に向かって、「エネルギー転換」の道を邁進中のドイツで、12月1日、2番目に大きい電力大手RWE社が、再エネと送電・売電部門を子会社として分割するというニュースが駆け巡った。

実はちょうど1年ほど前に、ドイツ最大の電力会社E.ON社がやはり2社に分割された。切り離された石炭・褐炭とガス火力部門が、今年1月よりUniperという新会社にまとめられている。

ドイツには大手電力会社は4社あるが、経営はどこも火の車だ。ちなみに今年、E.ONは57億ユーロという記録的な赤字になるらしい。RWEの発電事業での売り上げは、2009年からの5年間で3分の2に落ち込んだ。株価も下がる一方だ。

なぜ、そんなことになっているかというと、主な理由は電気の市場価格の下落だ。これには、急増している「再エネ」が深く関係している。

再エネ電気は固定価格で買い取られ、優先的に市場に流される決まりなので、日が出て、風があると、大量の電気が卸売市場に流れ込む。すると、需要と供給のバランスが崩れ、電気の値が下がる。電気がだぶつき、しかも底値となると、電力会社は発電しても採算が取れない。あるいは、発電ができない。だから経営が苦しくなるのである。

自然保護団体は、火力や原発を持つ電力会社を目の敵にしているため、この現象を再エネの勝利と見て、「それみたことか」とばかりに沸き立っているが、そんな簡単な話ではない。

再エネが火力や原発を駆逐しているのは、再エネに競争力があるからではなく、固定価格で買い取ってもらっているからに過ぎない。再エネの生産者は、自分たちの電気があとでゴミのような値段で取引されることになっても、どうってことはない。

しかし、その買取り費用を負担しているのは、一般の消費者だ。不必要な電気が入り込んで卸売価格が下がれば下がるほど、再エネの買取り価格との差額は広がり、その費用が一般の電気料金に乗せられるので、電気代が上がる。

3人家族の電気代は、2000年から去年までの14年間で、なんと2倍になってしまった。ドイツの再エネ生産者が繁盛しているのは、国民が身銭を切っているからだということを忘れてはいけない(日本も同じ)。

■再エネが独り立ちできないワケ

電力会社が赤字になっている理由は、もう一つある。それは、再エネ電気の調整が大きな重荷になっているからだ。

電気は貯めておけないので、常に需要に供給量を合わせなくてはならない。ところが、再エネ電気は多くが風と太陽任せであるため、供給量が刻一刻と変化する。それを調整するため、増えすぎた時は風車や太陽光パネルにストップをかけたり、また、足りなくなると、原発や火力を稼働させて補充したりということが、電力会社によって絶えず行われている。

一方、天候に恵まれず、再エネがギブアップしたときには、電力会社は直ちに火力や原発の出力を上げ、100パーセントそれをカバーすることを求められる。そして、そういう細かい作業が、昨今、再エネ電気の急増のせいで極めて複雑になり、調整回数もすでに年間何千回にも上っているという(この経費もやはり消費者の電気代に乗せられる)。

ところが、気の毒なことに、電気会社のこの苦労はほとんど知られていない。ドイツ国民は、再エネ電気は余っていると信じている。それなのに電力会社は未だに未練がましく、汚くて将来性のない火力にしがみついているのである。

再エネが、まだまだ独り立ちできない身の上であるということは、ドイツでは故意に包み隠されているようだ。だから、待機の費用を国が援助しようなどと言うと、多くの国民は、無用の長物を生き長らえさせるために税金を使うとは何事か!と怒り出す始末だ。再エネは「絶対善」なのである。

それなら一度、再エネだけでどうなるか実験してみたらよいと思うが、もちろん、それはできない。確実に停電になるからだ。ドイツの都市で大停電が起これば、その損害は計り知れない。

というわけで、火力は目下のところ、汚いと文句を言われながらも、絶対に撤退できず、コンスタントな儲けも出せないという非常に厄介なところに追い詰められてしまった。つまり、E.ONとRWEが石炭・褐炭を切り離す理由は、一言で言えば、あらゆる意味で「割に合わない」からである。

RWEは、ドイツのルール工業地帯の真ん中で、石炭、褐炭とともに成長してきた会社だ。それだけに再エネへの投資に出遅れ、その発電量はまだ全体の5%を占めるにすぎない。

だから、分割したからといって、新会社が急成長して再エネで速やかに利益を生み出せるようになるはずもないのだが、火力や原発の道連れになって討ち死にするよりはマシだと思っているのだろう。

ちなみに、RWEは再エネを切り離し、原発と火力を元の会社に残したが、E.ONはその反対で、化石燃料を切り離し、本社に再エネと原発を残した。本当はRWEのように、原発と火力をコンビにして切り離したかったらしいが、政府の圧力で阻止されたと言われている。火力は儲けが出ないことが予想されるので、原発をそこに組み込むと、廃炉の経費を食いつぶすという懸念があったからだそうだ。

今回RWEが、将来性のない原発を、やはり希望薄の火力と一緒にすることに成功した理由は、原発の廃炉費用がすでに取り分けてあるからだともいう。あるいは、新会社の株の90%をRWE本社が保有することと関係があるのかもしれない。

投資家はこの分割を英断と見たらしく、RWEの株価は急上昇。同社のリベンジにかかる期待は大きい。いずれにしても、ドイツの原発と火力が再エネに追い詰められ、究極の継子状態となってしまった今、RWEとE.ONの事業分割は、生き残るための捨て身の挑戦といったところだろう。

■電力の安定供給に誰が責任を持つのか?

日本でも、再エネがこれ以上増えると同じ現象が起こりうる。膨大な買取り費用に加え、何百キロもの新しい送電線が必要になる。再エネの調整はさらに複雑化し、地域間の送電線連係も強化しなければならない。それらすべてが、規則はどうであろうと、最終的には消費者の電気代に乗せられることになる。

一方、火力は再エネに押されて、出番が減れば儲からず、いよいよ利益が出なくなれば、ドイツ同様、日本の電力会社も儲からない部門は切り離すという"奥の手"を繰り出すかもしれない。

では、そうなったとき、電力の安定供給に誰が責任を持つのか? 電力安定供給の最後の砦は、ドイツでも日本でも、現行の法律では送電会社にある。しかし、発電設備を持っていない送電会社が、どうやって電力の安定供給に責任を持つのか?

この問いに、ドイツ人ならちゃんと答えられる。「足りなくなれば、送電会社は責任を持って近隣国から電気を買ってくれば良い」と。

しかし、島国日本ではそうはいかない。今はまだE.ONやRWEのように火力を切り離す動きはないようだが、来年から発電が自由化される。安定した収入が見通せない設備については、ドライな判断を下す事業者も出てくるかもしれない。

実際、ドイツに限らず、自由化が先行している欧米では、既設の火力が採算性を失い、撤退している例はたくさんある。島国日本が、それを見ないまま、再エネを無制限に増やすのは自殺行為に等しい。

再エネを健全に伸ばすためには、「蓄電技術」が必要だ。必要な時に必要な量の電気を送り出せるようになれば、その分CO2排出量の多い火力の負担を減らせる。現在パリで開かれているCOP21の最重要案件である温暖化防止という見地からも、蓄電は、世界中の人々が待ち望んでいる技術なのである。

だからこそ、日本政府は高い買取り単価というニンジンをぶら下げたなりふり構わぬ再エネ推進策は即刻やめて、蓄電技術の開発に大々的に投資して欲しい。その上で、再エネによる発電量を増やすのであれば、理にも適う。

蓄電技術の確立は、今、日本人の能力を世界の環境改善と人々の幸福のために活用できる、まさに絶好の研究分野ではなかろうか。


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