2015/11/28

イスラム過激派が500人!テロ厳戒下のベルギーはいま、無法地帯になっている / 川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」

 source : 2015.11.27 現代ビジネス (クリックで引用記事開閉)

「黒いハンドバッグ」に脅える市民たち

■政治的混乱が常態の「EUの首都」




ベルギーの首都ブリュッセルで、テロ警戒レベルが最高に引き上げられ、厳戒態勢に入ったのは21日だが、まだ解除されない。少なくとも30日まで続くそうだ。

ベルギーというのは昔からへんてこな国だった。首都のブリュッセルは、紛れもなく美しく豊かな街で、美味しいビールと極上のチョコレートでも有名だ。もちろん、2万5000人の職員を擁する欧州委員会の総局があるので、「EUの首都」ともいえる。

しかし一方で、ブリュッセル市の人口が100万人強なのに19もの自治体に分かれていて、19人の長がいて、6つの警察本部がある。公用語はフラマン語、フランス語、そしてドイツ語。政治は混乱しており、すでにそれが常態のようだ。大昔、落合信彦氏がベルギーのことを「白いインド」と呼んだが、言い得て妙だった。

2010年の総選挙の後はなかなか組閣ができず、ようやく新内閣が成立した時には、選挙から535日が経っていた。つまり、1年半のあいだ正式な政府がなかったのだが、とくに支障もなかった。とはいえ、535日の空白というのは、おそらく世界新記録だろう。現在の内閣は4党連立で、14年6月の選挙後、わずか(!)4ヵ月で誕生した。

ベルギーにはイスラム系の移民が多い。ブリュッセルでは、その数は、すでに住人の半数を超えており、近年では、新生児の名前で一番多いのがムハンマド君だという。

アラブ系だけでなく、アフリカ系の移民も多い。コンゴ、ルワンダ、ブルンジなど、ベルギーがかつてアフリカに植民地を持っていたためだ。

ベルギーの植民地政策は、多くの国がまだ植民地を持っていた20世紀の初頭でさえ、あまりに残忍であるとして国際的な非難を呼んだという。コンゴでは、過酷な搾取によって人口が5分の3に減ってしまったそうだ。

ベルギーの植民地であった国は、独立した後もそろって貧困から立ち直れず、そればかりか、内戦や虐殺など悲惨な状況が続いた。それは、独立に際しての宗主国の無責任な対応の結果によるところが多いと言われている。

■いつのまにか「イスラム過激派の首都」に




現在、ベルギーが抱える一番の問題は、首都ブリュッセルの一部が無法地帯と化してしまっていることだろう。住民のほとんどが移民で、一番多いのはモロッコ系。失業率は30%と、かなり絶望的な場所だ。

この中に、イスラムの過激派が紛れ込んだ。あるいは、ここで生まれ育った。社会から締め出されてしまったような疎外感と失望が、ここの若者を過激な思想に走らせたのかもしれない。

そのうえ、この地区のモスクでは、すでに30年も前からキリスト教徒に対する憎悪を植え付ける教えが熱心に広められていたという。資金はサウジアラビアの過激イスラム宗派ワッハーブから出ていた。

しかし、19人の自治体の長は、誰もここが自分の管轄だとは思っていなかった。警察もあまり近寄らないというから、テロリストにとってはまさに天国だ。

当然、過激派はどんどん増えた。武器や弾丸も運び込まれた。ロシアからチェチェンのイスラム過激派もやってきた。ブリュッセルがいつしかヨーロッパにおける「イスラム過激派の首都」のようになってしまったのは、決して偶然ではなかった。

今、ベルギーには、シリアで戦闘に加わった経験のあるイスラム過激派が500人もいるという。彼らはベルギー国籍を持っているので、戦死しなければ皆、戻ってくる。

1月にパリで起こったシャルリ・エブドのテロのときも、準備がここでなされていたことは、その後の調べでわかっていた。今回のテロでも、犯人はベルギーで堂々とレンタカーを借りて、パリに出陣している。

だから、今、なぜそのような状態が放置されていたのかということが、厳しく問われているのだ。ベルギーの秘密警察は、アラビア語の通訳さえ十分に雇っていなかったといわれるから、それほど効果的なテロ対策は取られていなかったと思われる。

此の期に及んでまた新たなテロが起きれば、国際的な非難はさらに強くなる。ベルギー政府が戒厳令を解除できないのは、おそらくそのためだ。現在、ブリュッセル市内は物々しい警戒態勢だが、当局が事態を把握できているかどうかは疑問だ。

パリのテロにおけるベルギーの罪は、やはりかなり大きいように思える。

■ドイツ全土に広がる警戒態勢

月曜日の夕方、シュトゥットガルトの繁華街を歩いていたら、歩行者天国なのに大きな消防車が入ってきた。何かと思って見ていると、屈強な消防士がドタドタと5人も降りてくる。ただ、皆、ニコニコしていて、あまり緊張感はない。

一人が上を指差すので、見上げると、道の真ん中の街路樹の枝に、黒いハンドバッグが引っかかっていた。「ああ」と気がついた。今、持ち主のわからない荷物は、すべて警戒の対象になっているのだ。

しかし、このハンドバッグに爆弾が入っているとは思えない。それにしても、誰がこんなところに?

しばらく立ち止まって見ていると、消防士の一人が、先にグリップのついた長い棒を持って、そばのベンチに上がった。他の消防士はお腹を抱えてゲラゲラ笑っている。棒はギリギリで届き、エイっとばかりにバッグを跳ね上げると、真っ逆さまに落っこちてきた。爆弾が入っていたら、私も死亡していたところだった。

先週の金曜日には、ハノーヴァーの近くで、急行列車の中で不審な荷物が発見され、乗客は避難、駅は閉鎖され、何時間ものあいだ大騒動となった。ちょうどハノーヴァー市でオランダとドイツのサッカー国際親善試合が、ドタキャンされた日だったので、緊張感が充満した。最初のニュースでは、精巧な爆弾の模型が発見されたという話だった。

ところが、本当はただの機械の部品で、誰かが慌てて乗り換えた際に、置き忘れただけだったという。忘れた本人は、ニュースを見ても、自分が騒動の犯人であるとは思いもせず、2日後に忘れ物を探しに来て、ようやく事件は解明された。もちろんただの忘れ物なので罪には問われなかったが、掛かった費用は莫大である。

おそらく、ドイツでは現在、このようなことが全土で無数に起きていると思われる。わざと要らないリュックサックなどを置いていく愉快犯も出ているのではないか。

■なんとなく不安なクリスマス

そうはいっても、なんとなく気味は悪い。

我が家は、ふだんは一家離散状態になっているため、クリスマスだけはどこかで集合することにしているのだが、次女がロンドンで働いているため、今年はそこで落ち合うことになっている。クリスマスのロンドン、一番狙われそうな場所の一つだ。だんだん怖くなってきた。

ロンドンは2005年の同時テロの後、テロ対策に精を出し、2011年の時点で185万台の監視カメラが設置されている。今ではもっと多いだろう。しかし、イスラム過激派は自爆を厭わないので、監視カメラはあまり役に立たないような気がする。

長女はロンドンのあとニューヨークへ行って大晦日を過ごすというので、もっと怖い。やめればいいのに・・・。

それにしても、本当に嫌な世の中になったものだ。


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