2015/10/17

【鈴置高史】ニューノーマルになった日本人の「韓国嫌い」

 source : 2015.10.15 日経ビジネスオンライン (クリックで引用記事開閉)

「早読み 深読み 朝鮮半島」が150回を超えた。偶然にも連載開始と軌を一にして、日本人の「韓国嫌い」が激しくなった。坂巻正伸・日経ビジネス副編集長と深読みした。

■なぜ、こんなに居丈高に?

坂巻:前々回の「『ヒトラーと心中した日本』になる韓国」で、連載150回を記録しました。初回は2012年1月12日掲載ですから、3年9カ月も続いていることになります。

鈴置:韓国外交を主要テーマに書いてきましたが、そんな特殊な話を飽きもせずに読んでくれる読者がいることは、驚きです。

坂巻:毎回、非常にたくさんの皆さんにお読みいただき、たくさんのコメントをいただき、感謝しています。

新たな読者も増えています。日韓関係にさほど関心を持っていなかった人や「隣の国だから仲良くした方がいい」と考えていた人が「なぜ韓国はこれほど居丈高になったのか」と首を傾げるようになりました。

この「早読み 深読み 朝鮮半島」は、そんな人たちが読みに来てくれています。日本人にとって韓国外交は「特殊な話」ではなくなったのです。

■「もっと厳しく書け」

鈴置:韓国は李明博(イ・ミョンバク)政権末期から露骨な「卑日」政策を取り始めました。それまでの「反日」とは異なる、執拗な「卑日」に日本人は大いに驚きました(「これが『卑日』だったのか――」参照)。

2013年2月にスタートした朴槿恵(パク・クンヘ)政権は「卑日」に加え「離米従中」も開始しました。同盟国である米国の要請を無視し、中国の言うなりに動くようになったのです。今や、米韓同盟が続いているのが不思議なくらいです。

坂巻:このコラムも「卑日」と「離米従中」が2枚看板です。読者の反応を見ると、ここ3年間で日本人の韓国観が急激に悪化したことが分かります。

鈴置:連載を始めた頃、「韓国とは歴史的な因縁があるのだから、もっと優しく書いたらどうか」と怒られたことがあります。先日、この人に会ったら「もっと韓国に厳しく書け。手加減するな」と言われました。

180度の様変わりです。ほかにも同じ方向で変わった人が何人かいまして、多くが「リベラル」を自認していた人です。そもそも、優しくとか厳しくとか、感情で書いているわけではないのですが……。

坂巻:この連載は事実を淡々と深掘りするのがウリです。韓国への不信感や怒りが"リベラル"にも及んできたということでしょう。

■3分の2が「韓国嫌い」に

鈴置:「日本人の韓国への嫌悪」は統計にもはっきりと表れています。グラフ1「韓国に対する親近感」をご覧下さい。毎年10月に内閣府が日本人に聞く世論調査「日本と諸外国との関係」の一部です。

▲ 調査主体=内閣府/調査時期=毎年10月
※「親しみを感じる」は「親しみを感じる」「どちらかというと親しみを感じる」の小計、「親しみを感じない」は「親しみを感じない」「どちらかというと親しみを感じない」の小計


2014年の調査では「親しみを感じる」が31.5%で、1976年に調査が始まって以来の最低を記録しました。それまでの過去最低だった1996年の35.8%と比べても大幅に低い数字です。

一方「親しみを感じない」は66.4%。「韓国嫌い」の日本人が3分の2を占めるまでに増えたのです。これまた過去最高で、1996年の60.0%を大きく引き離しています。

韓国専門家の中には「今の対韓感情は1965年の国交正常化以来、最悪だ」と語る人もいれば「金大中(キム・デジュン)事件(1973年)当時の方が悪かった」と言う人もいます。

残念ながら内閣府のこの調査は1978年に始まったので、どちらが正しいかデータ的な判断はつきません。

なお、1996年に対韓感情が悪化したのは、前年の1995年11月14日に、金泳三(キム・ヨンサム)大統領が「日本の腐った根性を叩き直してやる」と語ったためです。訪韓した江沢民主席との共同会見の席での発言で、文字通り、中国の威を借りたものでした。

■一時は好感度国になったのに

しかし21世紀に入ると対韓感情は改善しました。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代にやや悪化したものの、2009年には「親しみを感じる」が66.5%にまで上昇しています。「韓流ブーム」の影響です。

グラフ2の「日韓関係」に関する意識調査も、ほぼ同じ傾向でアップダウンを示しています。

▲ 調査主体=内閣府/調査時期=毎年10月
※「良好だと思う」は「良好だと思う」「まあ良好だと思う」の小計、「良好だと思わない」は「良好だと思わない」「あまり良好だと思わない」の小計
(注)2013年10月調査までは、調査票の選択肢に「一概にいえない」が明示的に入っていないため、2014年10月調査


この調査では、内閣府は発表したグラフに2014年の結果を入れていません。同年から「一概にいえない」との回答を明示的に含めたため「それまでと単純比較しない」との理由です。

そこを敢えて比べれば2014年の「良好だと思う」は12.2%。前年の21.1%から大きく落ちて、過去最低になっています。2014年の「良好だと思わない」は77.2%で前年の76.0%からわずかですが増えています。

坂巻:いずれの調査を見ても、2012年から急激に日本人は「韓国嫌い」になり「日韓関係は悪い」との認識が一般的になりましたね。

■竹島が悪化の原点

鈴置:李明博大統領の突然の「卑日」攻勢が原因です。まず、大統領は2012年8月10日に竹島に上陸しました。

4日後の8月14日には「(天皇は)独立運動家がすべてこの世を去る前に心から謝罪すべきだ。痛惜の念という単語ひとつで訪ねてくるなら(訪韓は)必要ない」と語りました。

「竹島」より、天皇への謝罪要求の方がより大きな怒りを呼んだ、と見る人もいます。どちらにせよ日本人は、李明博大統領の言動からそれまでの「反日」とは違う何かを感じ取ったのです。

前者は「両国とも領有権は主張するが、現状には手を触れない」との、いわゆる竹島密約を完全に反故にするものだったからです。

韓国は金泳三政権時代から竹島での施設を建設するなど約束を破り始めていました。しかし、大統領の訪問は避けていました。そこまでやったら日本が本気で怒るとの懸念からでした。

後者の天皇への謝罪要求も同様で、一線を超えたものでした。メディアはともかく、韓国政府は「ちゃんと謝るなら来てもいいぞ」などと失礼な言い方はそれまではしませんでした。

日本を貶めて快哉を叫ぶ「卑日」がこの時点から本格化しました。表「韓国の主な『卑日』」をご覧下さい。主に韓国政府主導の「卑日」を収録しました。これ以外に「旭日旗への糾弾運動」など、表面的には民間有志による卑日行動も始まっています。

■心底驚いた告げ口外交

坂巻:李明博政権末期の慰安婦への謝罪要求は唐突で、「国交回復時の日韓基本条約で解決済みなのに……」と怪訝に思った人が多かったのではないでしょうか。

鈴置:「慰安婦」は宮沢内閣の時にも韓国が騒ぎ、もめています。その時に明らかな決着がついたと日本人は考えていましたしね。

坂巻:それでも「韓国の政権が末期に国内の支持をつなぎとめるためにいわゆる反日カードを切るのは、これまでもあったこと」と比較的冷静に捉えていた日本人が多かったと思います。

しかし、次の朴槿恵大統領は就任するや、いきなり「千年恨む」――厳密には「千年たっても加害者と被害者の関係は変わらない」と言い放ち「慰安婦で謝らないと日本と首脳会談はしない」と宣言。そのうえ世界中で「日本は悪いことばかりして謝らない」と悪口を言って歩き始めた。

鈴置:日本人はこの告げ口外交には心底、驚きました。おかげで朴槿恵大統領の就任以降、講演の依頼がぐんと増えました。

坂巻:この連載の読者も増えました。さて、日本人が「韓国は常識外れのことをするなあ」と首を傾げていたところに「明治の産業革命遺産」問題。これが最後のひと押しになりました。

日本の産業遺産登録に執拗に反対するのを見て、外交には無関心だった人や「韓国とは仲良くすべきだ」と言っていた人も「さすがにおかしい」と感じるようになった。

「韓国は国を挙げて日本の足を引っ張る国」との認識がこの時点で定着したと思います。

■「産業遺産」が最後の一撃に

鈴置:確かに、あの事件を機に韓国に見切りを付けた人が私の周辺にもいます。ことに、直前の日韓外相会談で「日本の産業遺産登録で手打ち」したのに登録を決める世界遺産委員会で韓国は合意を破り、反対したのが効きました。

泡を食った日本は「第2の河野談話」とも言える不利な文言を公式記録に残さざるを得ませんでした(「『世界遺産で勝った』韓国が次に狙うのは……」参照)。

当然予想される韓国のトリックを考慮し、合意をきちんと詰めておかなかった日本の外務省の能力はさておき、韓国という国への不信感が日本の指導層から普通の人にまで染み渡りました。

なお、この事件の直後に日本のある外交官が「産業遺産を巡る韓国との交渉にはアジア専門家は一切関与しなかった。文化の専門家が担当したから……」と語りました。

専門家ならともかく、普通の外交官には韓国という国の不実さは想像もできない、との言い訳です。韓国専門家なら騙されなかったかは保証の限りではありませんが。

坂巻:「産業遺産」の前と後、と区分できるほど日本人の対韓嫌悪感は高まりました。

鈴置:嫌悪感は「卑日」による部分が多いのか、それとも「離米従中」から来るものが大きいのか、どちらと思いますか。

■「対馬で守り切ろう」

坂巻:一般的には、「卑日」によって韓国に嫌悪感を持った人が多いのではないでしょうか。あからさまに自分たちに向けられた「悪意」に反応した結果だと思います。

他方、「離米従中」は直接的な嫌悪感につながるというより、日本への切実な影響が懸念される問題と捉えられています。

後者に関連し、この連載のコメント欄にも「韓国が中国側に行くとなると対馬が最前線だ。中国に対してしっかりと備えるべきだ」などと書き込む読者が増えています。

鈴置:「対馬が最前線」とは。日本人は元が高麗を道案内に攻めて来た元寇を思い出しているのですね。




坂巻:コメントを書いてくれる読者は安全保障などに関心が高い人が多いと思われます。それに加え、9月3日の北京での抗日式典です。朴槿恵大統領が米国の反対を押し切って参加したことが「離米従中」の動きが"ホンモノ"であるとの認識を決定的にしました。

「韓国は『帰らざる橋』を渡る」でもこの写真を使いましたが、朴槿恵大統領が天安門の上で習近平主席やプーチン大統領と並んだ光景を見て「警戒すべき韓国」を実感した人が多かったでしょう。

▲ (写真)天安門の壇上で演説する習近平主席。向かってその右下にロシアのプーチン大統領、左下にはカザフスタンのナザルバエフ大統領。3人に取り囲まれるように座る朴槿恵大統領

■もう、韓国とは関わらない

鈴置:天安門楼上のスリーショット画像は大きなインパクトがありました。それまで韓国人は「『中国傾斜』は誤解だ」「『離米従中』は日本人の作った陰謀史観だ」などと日本人に言ってきました。

しかし「天安門事件」後、そう言い張らざるを得ない韓国人を、日本人は冷ややかな目で見るようになりました。

坂巻:コメントを読んでいて興味深いのは、嫌悪感を表明しながらも韓国に攻撃的になるのではなく「中国側に行きたいなら行かせよう」「韓国にはもう関わり合いにならないでおこう」といった意見が増えていることです。

鈴置:韓国との絶交論ですね。そうした考え方が主流になっていくのでしょう。いくら謝っても韓国は「謝罪の仕方が悪かった」と蒸し返してくる。

ことに最近は新しいネタを探しては世界で「卑日」を繰り広げる。この連載で繰り返し申し上げたように、上から目線で日本を貶める「卑日」には限度というものがありません(「目下の日本からはドルは借りない」参照)。


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